大阪市の吉村市長が重視する「教育費無償化」、新年度から認可外保育施設へ通う児童も対象とする方針を明言されました。しかし、対象となる児童が限定される恐れもあります。

大阪市 認可外も教育費無償化 「認可」希望した園児対象 市方針 /大阪

毎日新聞2016年11月30日 地方版

幼児教育の無償化を進める大阪市の吉村洋文市長は29日の市議会本会議で、これまで無償化の対象外だった認可外保育所に通う子どものうち、認可保育所を希望して入れなかった「待機児童」については来年度から対象に含める方針を明らかにした。市は今年4月から、5歳児について学校教育法で「学校」として扱われる幼稚園の保育料は原則全額無料、認可保育所の保育料は5~6割部分を教育費として無料にした。来年度は4歳児へも拡大する方針だ。

また、一定の教育水準を満たす認可外施設については、待機児童でなくても来年度中に対象とする意欲を示している。

市によると、今年4月現在の待機児童は273人。年齢別では1歳児が190人と圧倒的に多く、4、5歳児は各2人の計4人。

市長の答弁内容は動画にて公開されています。関連部分(趣旨)を文字に起こしてみました。

金子恵美議員(維新)
・市長は今年度から幼稚園、保育所へ通う5歳児を対象として教育無償化を実施した
・他の議員からの質問に対し「来年からは4歳児に広げたい」と明言した
・市長は認可外保育施設に通う児童も対象としたいと表明している
認可保育所へ入れず待機児童となってしまい、やむを得ず認可外保育施設へ通わせている保護者には、保育所へ入れなかったことに加え、無償化の対象外となっている事への強い不公平感がある
・単に子供を預かる施設から教育に重点を置く施設まで、認可外保育施設の運営実態は様々である
・幼児教育が一定の水準を満たす施設は対象とすべきである

市長
・4-5歳児は教育の時期であるという考えを社会に浸透させたい
・保育所への入所を希望しながら待機児童となり、やむを得ず認可外保育施設へ通う児童は、公平性の観点から来年4月から対象とすべきだと考えている
・認可外保育施設は児童福祉法による認可を受けていない、様々な施設の総称である
・子供の安全確保の観点から、一定の条件設定が必要だと考えている
・待機児童でなくとも一定の幼児教育を受けている児童も対象にすべきである
・対象となる施設を見極める必要がある
・教育の内容を審査する基準作りを行う必要があり、保育幼児教育センターで検討したい
・来年度中には一定水準の幼児教育を実践している認可外保育施設に通う待機児童以外の子供達に対しても、幼児教育の無償化を進めていきたい

https://youtu.be/8usnB3tdVTE?t=23m42s

市長答弁から2つの方針が読み取れます。

1.平成29年4月から教育費無償化対象
(1)4-5歳児クラスに在籍している
(2)保育所への入所希望したが待機児童となった
(3)やむを得ず認可外保育施設へ通っている

2.平成29年度以降に教育費無償化対象としたい
(1)4-5歳児クラスに在籍している
(2)一定水準の幼児教育を実践している認可外保育施設へ通っている

「待機児童」の定義によっては対象が限定される

一歩前進と感じる一方、無償化対象となる児童の範囲が極めて限定的となる危険もあります。

冒頭で取り上げた毎日新聞記事に記載されているとおり、今年4月における4-5歳児の待機児童は4歳児2人(淀川区)・5歳児2人(港区)の合計4人のみでした。過去に遡っても似た水準です。

4-5歳児はまとまった募集枠が空いている保育所が多いのに加え、一斉入所で入所できなければ幼稚園等へ入園するケースが少なくない為でしょう。

大きな問題となるのは「待機児童」の定義です。大阪市は、利用保留児童から転所希望・育休中・求職活動休止中・特定保育所希望等を除外した人数を「待機児童」としています(詳細はこちら)。

こうした厳密な定義を利用するのであれば、認可外保育施設を利用している4-5歳児の大半は教育無償化の対象外となる可能性が高いです。

「一定水準の幼児教育」の基準作りはこれから

また、平成29年度以降の導入が検討されている施策にも問題があります。すなわち「一定水準の幼児教育を実践している認可外保育施設」の基準です。

参考となりそうなのは「大阪市就学前教育カリキュラム」です。これは、「基本的な生活習慣と道徳性の芽生えを培い、規範意識を育てることを重点に、幼児教育において、普遍的な規範を明確化して繰り返し指導することや知・徳・体をバランスよくはぐくむことを重視した」カリキュラムとされています。

カリキュラムに則った幼児教育が実践されている施設は無償化対象、そうでなければ対象外とする、という方法が考えられます(あくまで推測に過ぎませんが)。

教育費相当額が全て無償となるのか?

また、教育無償化と言えども、一定の上限額が設定されるのではないでしょうか。例えば幼稚園へ通う5歳児の場合、最も所得が高い世帯では従来22,300円だった保育料が無償となっています。同様に保育所では16,100円が教育費相当額とされています。

一部の認可外保育施設では、極めて高額の保育料を設定している施設もあります。教育費相当額を全て無償とするのは、財源・公平性の観点から大きな問題があるでしょう。

これらを踏まえると、認可外保育施設の教育無償化は、上限額を15,000円~20,000円(但し保育料総額の半額を上限とする)とするのが一つの考え方となりそうです。

詳しい内容は12月7日(水)13時から行われる教育こども委員会で明らかになるでしょう。認可外保育の無償化(本決定は2月市会?)・西船場幼稚園の廃園案等、激しい委員会となりそうです。