珍しい訴訟が行われています。認可保育所へ入所できなかった女性が市を相手取り、認可外保育施設に掛かった費用の一部(60万円)を請求する訴訟を提起しています。

子どもを認可保育園に入れられなかったのは自治体が責務を果たしていないためだとして、東京都三鷹市の女性(33)が市を相手取り、無認可の保育施設にかかった費用の一部60万円の賠償を求める訴訟を起こして争っている。夫婦共働きだが4人目の子どもは2年続けて選考に漏れ、入園はかなわない。弁護士に頼らない本人訴訟で、保育行政の不備を問うている。

女性によると、2015年春、第4子の三女が市内の認可保育園の入園選考に落ちた。第3子の長男は5年前に同じ園に入れたため「通知の文書を目にした時はがくぜんとした」。共働きなどの子育て世代が増え、競争が激化したとみられる。今春も選考に漏れた。

都内では夫婦がフルタイムで働いていても子どもを保育園に入れられないケースが少なくない。「これでいいのか」との思いが募り、今年2月に提訴に踏み切った。「市は確実に保育を受けられるようにする児童福祉法の責務を果たすべきだ」と主張した。

1審・東京地裁立川支部は7月、「市には最善を尽くす責務はあるが、義務はない」と訴えを退けた。判決は保育定員を増やしてきたことを理由に「できる限りの責務を果たした」とも指摘したが、女性には、市が最善を尽くしているとは思えない。

今月、東京高裁で控訴審の第1回口頭弁論が開かれた。「保育園が足りなくても仕方がないという現状はおかしい」。閉廷後、女性はそう語った。訴訟を通じて問題提起を続けるつもりだ。

http://mainichi.jp/articles/20161213/k00/00e/040/156000c より一部引用

児童福祉法24条に保育に関する責務規定が定められています。

第二十四条  市町村は、この法律及び子ども・子育て支援法 の定めるところにより、保護者の労働又は疾病その他の事由により、その監護すべき乳児、幼児その他の児童について保育を必要とする場合において、次項に定めるところによるほか、当該児童を保育所(認定こども園法第三条第一項 の認定を受けたもの及び同条第九項 の規定による公示がされたものを除く。)において保育しなければならない。

1審は原告敗訴、現在は控訴審で口頭弁論が行われています。

少し気になったのは訴訟方法です。上記記事を読む限り、保育所への入所を義務づけると言った行政訴訟ではないと思われます。

一般的に行政訴訟は特有の手続が複雑で、本人訴訟で裁判を継続するのは極めて難しいと聞きます。しかし、本訴訟は通常の賠償請求訴訟(国家賠償請求?)だと考えられます。端的に金銭賠償を求めているため、本人訴訟でも継続しやすいでしょう。

本訴訟は形式的には金銭の支払いを求めています。されど、主たる争点は賠償責任の有無ではない様子です。原告は訴訟を通じ、保育所不足・保育行政の不備等を訴えています。

1審判決は「市に最善を尽くす責務はあるが、義務はない」と原告主張を退けています。保育行政の不備を訴える原告の主張に対して被告(三鷹市)が何らかの主張を行い、裁判所も一定の判断を示したのでしょう。全くの門前払い、という内容ではなかったと思われます。

訴訟には極めて大きな負担が伴います。保育所への入所を目指すのであれば保育所・地域に拘らず、より入所しやすい地域へ転居するのがベターな方法でしょう(本訴訟を否定するものではありません)。

子どもの成長は早いです。訴訟が長引いてしまい、小学校へ入学する年齢になってしまったというケースもあります(北九州市保育所入所事件)。

以下、保育所への入所等に関連する訴訟例を一部ですがまとめておきます。

横浜市立保育園廃止処分取消請求事件(最判H21.11.26):棄却
障害児保育所入所拒否国家賠償請求事件(さいたま地判H16.1.28):一部認容
東大阪市保育所入所保留処分損害賠償請求訴訟(大阪地判H14.6.28):一部認容
大桑等行政処分執行停止即時抗告申立事件(大阪高決H1.8.10):原判決取消(執行停止の申立ての利益あり)
北九州市保育所入所事件