何かと話題を集めている大阪市政、今回は企画提案型の募集案件で大炎上しています。大阪市立小中学校におけるプログラミング教育について民間事業者へ協力を求めているのですが、その内容が余りに酷いと話題を呼んでいます。

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(1/30追記)
批判の声が余りに多かった為か、協定書は取り下げられました。

プログラミング教育推進事業への協力事業者の募集にかかる協定書を取りさげます。

 大阪市において、平成29年1月12日に公表しました「大阪市プログラミング教育推進事業の実施にかかる協力事業者の募集」に関しまして、公表しておりました資料のうち、「平成29年度 大阪市プログラミング教育推進事業に関する協定書」を取りさげ、新たに協定書を作成した後に改めて公表したうえで、協力事業者を募集することとします。
(以下省略)
http://www.city.osaka.lg.jp/kyoiku/page/0000388758.html
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平成29年度小学校段階からのプログラミング教育の推進に当たり協力事業者を募集します。
1 大阪市プログラミング教育推進事業の目的
次期学習指導要領における「小学校段階からのプログラミング教育」の導入検討を踏まえ、本市のプログラミング教育の推進に向けた授業づくりや体験学習、教員の研修等に取り組み、その成果の普及を図ります。
今般、その目的を達成するため、民間事業者の持つ教材や、幅広い知識と経験、専門性を活用し、広く協力企業を募集します。
2 基本条件・事業の実施方針
事業方針
・授業づくりへの協力や教材・ソフトの提供、教員の研修等を、無償で実施できる民間事業者を募集します。
・プログラミング教育体験機会の充実を目指した出前授業や教材の貸し出し等の企画提案を募集します。
基本条件
・ 小学校では、プログラミング教育を行う単元を位置づけ、協力校と連携して各学校の実情等に応じた授業づくりを行うことを基本とします。
・中学校では、技術・家庭科(技術分野)における授業づくりを協力校と連携して行います。
・ 本市の学校のICT 環境(仕様書に記載)で導入可能な教材・ソフトを活用した授業づくりができることを条件とします。

http://www.city.osaka.lg.jp/kyoiku/page/0000386948.html

問題が指摘されているのは太字部分、すなわち「無償で実施できる民間事業者」を募集しているという点です。更に人件費・貸出機器に関する教材費等の諸経費は全て事業者の負担(=大阪市は一切の費用を負担しない)、とし、賠償責任も負うとされています。

(1)経費の負担
ア 事業実施にかかる人件費、消耗品費、教材費(電子機器貸与料含む)、交通費等のすべての経費は事業者の負担とする。
イ 事業実施に必要な教育委員会所有の機器・環境は、無償で使用可能とする。
ウ 業務を遂行するために必要な経費について、本市は一切の費用を負担しない

(4)損害賠償
事業者は、その責に帰する事由により事業実施物件の全部又は一部を滅失もしくは毀損したときは、当該減失または毀損による事業実施物件の損害額に相当する金額を損害賠償として支払わなければならない。

募集事項より

こうした条件で応募する事業者が果たして存在するのでしょうか。デスマーチ等を強いられて忙しいIT業界、無償で協力して欲しいとは虫が良すぎます。

また、仮に応募があったとしても裏を疑ってしまいます。授業への協力・教材やソフトの準備・教育の研修を行うには、相当の手間暇が掛かります。

様々な家庭環境があってIT機器の取扱いに差異がある小中学生に対し、プログラミングを教えるのは容易ではありません。飲み込みが早い児童は1人で勝手に進める一方、全く何もできない児童もいるでしょう。

また、教員の能力も千差万別です。プログラミング教育を学生時代に受けてきた、もしくは趣味で触れる教員は殆どいません。教員が児童に教えられるレベルまで教育するのは本当に大変です。

無償・かつ諸経費を負担する条件で受託した企業が、果たして十分な教育や研修等を提供できるのでしょうか。

この話を聞き、以前に問題視された「1円入札」を思い出しました。公共事業等を1円で落札し、後のメンテナンス費用等で収益を上げる手法です。

しかし、今回は1年で完結する事業です。「急がば回れ」とは言い難いです。うがった見方をするのであれば、本件事業がパイロット事業の一つという点です。

授業づくりの協力校を5校程度と想定しており、事業者も同数を選定する予定です。今後、プログラミング教育は大阪市内の全小中学校(約500校)に広げていく方針だと推測されます。

本事業に協力した企業はノウハウを蓄積し、全学校で事業を進める場合の提案等に活かしてもらいたいというのが狙いなのかもしれません。「ノウハウが得られ、本導入で十分に採算が合うから、今回は0円で協力して欲しい」という意向でしょうか。

また、対象となる児童にも悪影響を及ぼしかねません。口が悪い大阪の子供であれば、民間企業の指導員に対して「給料もろうとる?こないな古いタブレットなんて使えへん!タダだからって手抜きせんといて!」と指摘しかねません。

吉村市長の下、大阪市は子育て・子供の教育を重視する姿勢を鮮明にしています。プログラミング教育の推進もその一環でしょう。

しかし、民間事業者にただ働きをさせるのは本末転倒です。必要な費用は大阪市が負担し、適当かつ効果的な事業を要請するのが筋です。

こうした事業費を払えないほどに、大阪市は財政難なのでしょうか。であれば、プログラミング教育の継続性も疑われます。無理に事業を実施するぐらいなら、事業取りやめも検討すべきです。

以下は私見です。

プログラミング教育には決して反対ではないものの、現状の大阪市の学校教育を踏まえると優先順位は高くないのではないでしょうか。

平成28年度全国学力・学習状況調査によると、大阪市内の小中学生の平均正答率は全教科で全国平均を大きく下回っています。

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http://www.city.osaka.lg.jp/kyoiku/page/0000379270.html

小中学校がすべきなのは、まずは児童・生徒に基本的な学習習慣を身につけ、基礎的な学力を向上させる事でしょう。プログラミング教育は遙か先にある話です。

近所の公園等で子供と一緒に遊んでいると、付近の小学生ともしばしば一緒になります。話を聞いていると、小学2年生で時計を読み間違える、3年生で九九が言えない、低学年で習った筈の漢字を5-6年生が読めない、という現場にしばしば遭遇します。

このままでは社会生活に最低限必要な学力を身につけないまま、社会に出てしまいます。それが何十年と続いているのが大阪の現状なのかもしれません。

反対に毎日の様に塾通いをし、中学受験を見据えている子供もいるそうです。学習塾では夜遅くに帰宅する小学生の列を見かけます。

起きているのは「著しい二極化」かもしれません。プログラミング教育の前に、対策すべき事柄が山の様にあるでしょう。