以前に大阪府守口市で保育料の無償化が導入される件について取り上げました。

【ニュース・12/21可決】守口市 0-5歳保育料完全無償化は実現・維持できるのか

導入されて3カ月、現場はどうなっているのでしょうか。日経新聞が取り上げています。

 「こども保険」導入に向けて政府が議論を始める。保険料で新たな財源をつくり、子育て環境の拡充に充てる構想だ。その柱は幼児教育・保育の無償化。今年4月に大阪府守口市は国の施策を先取りするかのように無償化に踏み切った。幼児教育・保育の無償化の効果と課題を守口市のケースから検証する。

(中略)

大阪市に隣接する守口市は人口14万人。国によると、市レベルの無償化は全国的にも聞いたことがないという。子育てにやさしい市を強力にアピールするために、世帯収入などの制限も付けていない。市内在住で市内の保育所や幼稚園に通うほぼすべての乳幼児4100人が対象だ。

http://www.nikkei.com/article/DGKKZO18403160T00C17A7NZBP00/ (全文は会員登録してご覧下さい)

保育料の無償化は、子育て世帯にとっては非常に嬉しい話です。経済的な負担が大きく軽減され、当座の生活費・習い事の費用・教育費の積立等に充てられます。

申込数4割増!

その反面、気になるのは「保育所等への申込数が大幅に増え、入れなくなるのでは無いか?」という心配です。

守口市は「認定こども園等の入園動向」という資料を公表しています。

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これによると、平成28年度の申込数757人に対し、平成29年度は1052人に達しました。295人(約40%)も増加しています。急増です。

最大の理由は保育料無償化でしょう。この制度により、保育所等を新たに利用しようと考えた世帯が多いのではないでしょうか。

では、申し込んだ児童は保育所等へ入所できたのでしょうか。守口市は無償化と同時に保育施設を大幅に拡充しています。

幼稚園の認定こども園化・こども園の増改築・小規模保育等の新設により、平成29年度の定員数は前年より455人も増加しました。

これにより、未利用児童数(入所保留児童)は平成28年度の110人に対し、平成29年度は153人となりました。人数ベースでは43人も増加しています。しかし、「入所決定率」は平成28年度と同値である85.5%に留まりました。

これらから、保育料の無償化は保育所等への申込数を急増させる効果があるのは間違いないでしょう。

制度導入前には「入所保留児童数が急増するのでは無いか?」と心配していました。今年は保育施設の大幅拡充が行われ、保留児童が溢れかえる事態は避けられました。

心配なのは来年以降です。平成30年度の申込数も急増するのは間違いないでしょう。一方、保育施設の新設は厳しさを増しています。保育士不足が深刻です。

また、新設1年目の施設は全定員分の園児が入所できますが、2年目以降は卒園児に見合った園児数しか入所できません。平成29年度は455人分の定員を増やしましたが、当該施設へ平成30年度に入所できる園児は120名程度ではないでしょうか。

保留児童・家庭育児世帯の不公平感

保育料が無償であれば、入所できなかった世帯の不公平感は極めて強くなります。有償時代以上に強いクレームが付いているのではないでしょうか。

また、在宅で育児を行っている家庭との差も深刻です。日本共産党守口市会議員団の資料によると、同市で保育施設を利用しているのは3歳児85%・1-2歳児50%弱・0歳児20%だそうです。

保育施設を利用する世帯に公的支援が集中する一方、在宅世帯への経済的支援は希薄です。公費の投入が不公平だという指摘は免れないでしょう。

なお、保育料の無償化に対し、同議員団は「平成30年度から4,5歳児の保育料無償化案」と修正提案していたそうです。対象を4-5歳児に限定したのは大阪市(ただし教育費無償化)と同じです。維新と共産党が同趣旨の提案をしたのは興味深い点です。

ほぼ全ての4-5歳児は幼稚園や保育所等へ登園しています。保留児童・家庭育児世帯が皆無に近いので、不公平感は和らぎます。

100万円以上軽減された高所得世帯も

とは言え、まだ不公平感は残ります。従前の保育料は住民税額によって定められていました(応能負担)。守口市で導入された保育料無償化は収入制限等を全く設けていません。

大きなメリットを受けるのは、高収入・高所得があって高額の保育料を支払っていた世帯です。2016年度の同市保育料表によると、世帯市民税444,000円以上・0-2歳児の保育料は64,000円となっていました。

中には年間100万円以上の負担が軽減された世帯もあるそうです。

「私の給料がすべて保育料に消えるはずだった」(パート、29歳)、「月5万円浮いたので習い事に通わせ始めた」(会社員、32歳)。子どもが複数いる場合は年間100万円以上も負担が減った家庭もあり、無償化は何かと出費がかさむ子育て世帯に経済的な恩恵をもたらしている。

最高所得世帯・0-2歳児2人であれば、昨年までの年間保育料は1,152,000円に達していました。これが無償となりました。税引き前ベースだと200万円以上の収入増です。

反面、生活保護世帯等の保育料は従前から0円でした。無償化による経済的効果は皆無です。

子育て世帯を呼び込めるか

では、保育料無償化で子育て世帯を呼び込めるのでしょうか。

多くの新婚世帯・子育て世帯が住居選びで重視するのは、「勤務地への通勤のしやすさ」でしょう。我が家も勤務地との関係で地域を絞り込みました。

守口市内は京都と大阪淀屋橋を結ぶ京阪本線、梅田や谷町へ直行する大阪市営地下鉄地下鉄谷町線(もうすぐ民営化されますが)が通過しています。

大阪市内に住んでいて気になるのは「面積あたりの地価の高さ・住居の狭さ」です。これに悩んでいる子育て世帯は少なくないと思います。

守口市がターゲットとすべきなのは、京阪本線や地下鉄谷町線の沿線で勤務している大阪市民でしょう。保育料無償化・地価の安さ等に魅力を感じる子育て世帯は少なくないです。

であれば、京阪本線・地下鉄谷町線の駅広告・車内広告等を利用し、こうした施策をアピールするのも一つの方法です。ホームページに掲載するだけでは弱いです。

応能負担から全面的な無償化への急激な方針転換、ここには「高所得の子育て世帯に居住して欲しい」という本音も垣間見えます。大阪市の子育て・教育施策にも似た雰囲気を感じています。

理屈としては理解できます。しかし、果たしてそれで良いのかという疑問も残ります。