大阪市の将来を占う、重要なニュースです。大阪都構想と並んで検討されている「総合区」制度の素案が公表されました。

大阪24区を8総合区へ再編し、市立保育所の運営・私立保育所の設置認可権限等を委譲する素案となっています。

大阪「総合区」、保育・道路など移管 市が素案公表
区長裁量予算3倍 窓口継続で利便性維持

大阪市は10日、市を残したまま市内24区を8区に再編する「総合区」制度の素案を公表した。保育所の運営や道路管理などの事務を総合区に移管。既存の24区ごとの住民向け窓口業務は続け、市民目線での行政サービス提供を目指す。区長が自身の判断で使える予算を3倍近くとし、人事などの権限も強化。市職員を各区に振り分け、区の職員数を約2200人増やす。

素案は同日の市戦略会議で示した。大阪府・市の将来の都市制度を検討する法定協議会で8月下旬から議論を始め、市は今年度内にも最終的な制度案を固める。

吉村洋文市長は戦略会議で「今の24区では体制が脆弱。住民に身近なところは総合区が決定できる体制にしていかないといけない」と述べた。

素案によると、生活に密接に関わる行政サービスの一部を市の各局から区に移す。市立保育所の運営や民間保育所の設置認可、老人福祉センターの運営のほか、放置自転車対策や生活道路、公園の維持管理などが対象。区への移管で市と区の間の連絡調整の手間を省き、市民のニーズに迅速に対応するのが狙い。

移行後も現行の24区は「地域自治区」として事務所を置き、住民票の交付や各種手当の申請など窓口サービスは続ける。府・市の共同部署である副首都推進局は「住民の利便性は維持される」としている。

事務の拡大に合わせて予算や職員数も拡充。区長の判断で使える予算は24区全体で82億円だが、総合区では3倍近い226億円とする。区職員は現在の4800人から7千人に拡大するが、各局から配置転換されるため、市全体の職員数は変わらない。

区長は市長が選び、市議会の承認を経て任命する特別職の公務員とし、権限を強化する。次年度予算について、区への配分のあり方を市長と直接協議できる仕組みをつくるほか、非常勤職員の採用や課長級より下の職員の昇任は、区長自らの判断でできるようにする。

一方、総合区の名称は、制度導入を決めた後に住民の意見などを踏まえて議会で決める。住所表記は変わり、例えば「北区中之島」の場合、「○○区北中之島」といった形になるとしている。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASHC09H29_10082017AC1000/

他紙も報じています。
大阪市が「総合区」詳細案を決定、保育所認可・道路維持管理など身近な行政事務を移管(産経)
総合区素案 区長裁量予算を拡大(NHK)

保育所関係事務の一部を総合区へ委譲

素案の詳しい内容は大阪市副首都推進局ウェブサイトに掲載されています。

総合区の検討状況について
http://www.city.osaka.lg.jp/fukushutosuishin/page/0000394392.html

保育所等に関する素案は「総合区素案(各論)2.事務分担」に詳しく記載されています。

素案では既に区役所で行われている保育所等への入所決定事務に加え、市立保育所の運営・私立保育所の設置認可等に関する事務を総合区へ委譲する内容となっています。

反面、ここに明記されていない保育料表の改変・私立保育所等に対する監査指導等に関する事務は、引き続き市役所(こども青少年局)が行う事になりそうです。

どの事務を移譲し、どれを局に残すべきかという判断は非常に難しいものです。しかし、仮に私立保育所の設置認可事務を移譲するのであれば、指導監査権限も委譲すべきでしょう。総合区が認可し、その後の監査等は市役所に任せるのはおかしな話です。

ただ、素案では設置認可に関する審議会の運営は引き続いて局が行う物とされています。しかし、下記の表には「事業者の決定は区役所で実施」と記載されています。

各区のどこで待機児童が多く発生しているかという情報は、主に区役所が有しています。こうした情報や区民からの声を基に、区役所が整備計画・地域調整を行うのは理に適っています。

しかし、区役所が審議会を通して事業者を決定し、設立前後の指導を継続して行うのは重い事務ではないでしょうか。事業者の決定は、引き続いて市役所(審議会)が行う方が良いと感じました。

総合区制度を導入する効果の一つに、「区民の声をより反映した区政の運営」が挙げられています。

現時点でも区民の声は大なり小なり区役所に届いてます。しかし、その声の大半は「古くから地域に住んでいる高齢者の声」が殆どです。具体例を出すまでも無く「高齢者ファースト」が続いています(徐々に薄らいではいますが)。

高齢者の声に押され、子育て支援が後回しになりかねない懸念があります。「地域の待機児童等の状況に応じて保育所を設置」という狙いは、諸刃の刃となりかねません。

「区を跨いだ入所調整」は変わらずか

非常に気掛かりだったのは「区を跨いだ入所調整」です。

大阪市では、居住区以外の保育所等へ入所を希望しても、居住区民と同じ基準で入所調整が行われます。「福島区民が北区の保育所を希望する場合は、点数がマイナスされる」という事はありません。

総合区になった場合の取扱は明記されていません。しかし、「保育所の制度管理」は依然として市役所の事務とされています。制度全体を市役所がグリップするのであれば、区を跨いだ入所調整は現在と変わらずに行われそうです。

仮に大阪都へ移行した場合には、他区への入所希望者は点数が減点されてしまう恐れがありました。総合区とは違い、大阪都での他区は「別自治体」です(経過措置はあるでしょうが)。

総合区・大阪都はあくまで「素案」です。今後の議論によっては更に変わるでしょう。

より良い制度を期待する一方、「制度遊びにコストを費やすより、目先の子育て支援・教育環境の整備等に重点を置くべきではないか」という心配も有しています。

どんなに良い制度を提案しても、目先の環境が悪化する一方であれば、制度改変に期待するのは難しいです。まずは現行制度で可能な範囲で対策を行い、問題を少しでも解決して欲しいです。