痛ましい事故が起きていました。

堺市の日中一時支援事業を利用した男児が、食事を喉に詰まらせて窒息死したと明らかになりました。男児はダウン症でした。

 ダウン症の1歳の男の子が堺市にある預かり施設で食事をのどに詰まらせ、死亡する事故があったことが、6日の市議会で明らかになりました。

 1歳9か月だったけんたちゃん。ダウン症で発達は少しゆっくりでしたが、つかまり立ちができるようになった頃でした。母親が特に気をつけていたのが、食事です。

 「食事内容ですね。のどに詰まるのが怖いから、おかずは固形じゃなくてドロドロのすりつぶした状態で」(母親・40代)

 ダウン症の子どもは食べ物を噛んだり飲み込んだりする力が弱いため、母親はけんたちゃんが1歳9か月になっても、生後7か月くらいの子どもが食べる柔らかいものを食べさせていました。

 事故が起きたのは、去年11月。障がい者を一時的に預かる堺市の指定事業者の施設の中でした。この日、母親は仕事のため夕方から預けていました。ところが・・・

 「『お母さん、けんちゃんが意識がないんです、すぐ来てください。食事中にのどに食事が引っかかってしまったから』と言われて、びっくりして」(母親)

 施設から連絡が入り慌てて駆けつけると、意識がなく心肺停止の状態でした。救急搬送されましたが、そのまま脳死状態となり8日後に亡くなりました。

 「悲しかったです。涙しか出てこなくって」(母親)

 診断書には、「食事していたところ誤嚥し、窒息した」と記されています。母親が職員らに説明を求めたところ、提供された食事が生後12か月の子ども用だった可能性があることや、食事中にけんたちゃんが咳き込んだのに食事をあげ続けた、などの証言を得ました。

 一方、施設側が市に提出した事故報告書では「食事介助終了直後に苦しそうになった」と、あくまで「食事の後」に起こったとしたうえで、「判断に甘さがあった」と記されていました。

 公表されないまま、1年以上が過ぎたこの事故。6日、堺市議会で初めて取り上げられました。

 「当局はこの死亡事故について、どのように対応したのか。また、なぜ議会に報告がなかったのか」(堺市議会 森田晃一議員)
 「事業者に対して、利用者の立場に立った適切かつ丁寧な対応を行うよう指導した」(堺市の担当者)

 議員は、双方から話を聞き事故の真相を明らかにするよう求めました。

 「事実関係を把握しなければ、適切な指導はできないのではないですか」(堺市議会 森田晃一議員)

 そもそも、けんたちゃんが預けられていた「日中一時支援事業」は、堺市の基準を満たした施設が行っているもので、現状では職員に保育士や看護師などの資格は必要ありません。堺市は6日の答弁で今後、保育士の配置など事業基準の見直しも検討すると答えました。

 「まずは、しっかりとした基準・規制を定めてほしい」(傍聴した母親)

 MBSの取材に対し、施設を運営する会社は「担当者不在で対応できない」としています。
http://www.mbs.jp/news/kansai/20171206/00000056.shtml

亡くなった男児のご冥福をお祈りします。

ダウン症とは

ダウン症とはどの様な症状なのでしょうか。

ダウン症候群(ダウンしょうこうぐん、英: Down syndrome)は、体細胞の21番染色体が1本余分に存在し、計3本(トリソミー症)となることで発症する、先天性疾患群である。多くは第1減数分裂時の不分離によって生じる他、第2減数分裂時に起こる。新生児に最も多い遺伝子疾患である。

症状は、身体的発達の遅延、特徴的な顔つき、軽度の知的障害に特徴づけられる。若いダウン症成人の平均IQは50ほどであり、これは8-9歳の小児と等しいが、これにはばらつきが見られる治療法は存在しない。教育と早期ケアによりQoLが改善されるであろう。

ダウン症は、ヒトにおいて最も一般的な遺伝子疾患であり、毎年1000出生あたり1人に現れる。

wikipediaより

 ダウン症の特性として、筋肉の緊張度が低く、多くの場合、知的な発達に遅れがあります。発達の道筋は通常の場合とほぼ同じですが、全体的にゆっくり発達します。
 心疾患などを伴うことも多いのですが、医療や療育、教育が進み、最近ではほとんどの人が普通に学校生活や社会生活を送っています。

日本ダウン症協会ウェブサイトより

お世話になっている保育所には、ダウン症の児童がいます。発達がやや遅れながらも他の児童や保護者とコミュニケーションを取っている児童もいれば、一人でもくもくと遊んでいる児童もいます。

お母さんは「週に何度か療育へ通っている。地域の小学校へ進学したいけど、子供の様子を見ながら専門家と相談しながら考えていきたい」とも話していました。

個人差はありますが、適切な知識を有した人間がケアを行えれば、大半の日常生活は支障なく過ごせていると感じています(当然ながら、他者からは見えない部分で苦労していると想像できます)。

利用したのは堺市における日中一時支援事業

亡くなった男児が利用したのは「堺市における日中一時支援事業」です。

障害者支援の一環として、堺市は「宿泊を伴わない短期入所」を実施しています。

在宅の障害者及び障害児(以下「障害者等」という。)の日中における活動の場を確保することにより、障害者等の家族の就労や一時的な休息の取得に寄与し、障害者等及びその家族の福祉の向上を図るため、日中において障害者等が一時的に施設へ入所(日中一時支援)
堺市障害者日中一時支援費給付要綱より

日中一時支援事業が利用できない場合としては、感染症患者等が挙げられています。が、乳児・幼児等を除外する項目はありません。乳幼児の利用も想定されている事業と言えそうです。

死因は窒息死でした。誤嚥を恐れた母親は、男児が1歳9ヶ月となっても初期の離乳食の様な柔らかい食べ物を食べさせていたそうです。

しかし、施設は生後12ヶ月の子供用の食事、つまり中期の離乳食を食べさせていた可能性があると指摘されています。母親が食事内容を適切に伝えていなかったのか、母親から依頼された内容を忘れたのかは定かではありません。

更に深刻なのは誤嚥を起こしかけた以降の様子です。咳き込んだにもかかわらず食事をあげ続けた、母親が施設へ駆けつけた時は心肺停止状態だった、その後に緊急搬送された、と報じられています。

報じられている内容が正しければ、事故発生後の対応に重大な問題があったのは否めません。救急搬送の遅れはたんぽぽの国事故報告書でも指摘されています。

保育士等は不要だった、適切かつ持続可能な基準とは

事故について堺市議会で取り上げたのは、森田こういち議員です。

こうした事故が起きた背景には、日中一時支援事業における乳幼児の受入体制が不十分だったのではないかと指摘されています。乳幼児が利用する場合であっても、看護師や保育士等の配置は不要だそうです。

同事業は障害者の支援が目的です。障害を有する乳幼児も含まれる一方、利用は決して多くないと推測されます。乳幼児の利用を想定して保育士等を雇用するのは容易ではなかったのかもしれません。

とは言え、「保育士や看護士が不在だから、障害を有する乳幼児の利用はできません」とするのは制度趣旨に反するでしょう。

制度の目的・趣旨・基準と施設の運営・人員配備に齟齬が生じていると感じました。適切な基準・規制を定めても、持続的に運用できるかが気掛かりです。