幼児教育・保育無償化が動き出しています。

幼児教育・保育は、0~2歳児は住民税非課税世帯(年収約250万円未満)を対象に無償化する。3~5歳児は、保護者の所得に関係なく認可保育所や幼稚園、認定こども園の利用者は無償化する。

 認可外施設については、有識者会議を設置して無償化対象などを検討し来年夏までに結論を出す。5歳児については、19年4月から無償化することを検討している。

https://mainichi.jp/articles/20171209/ddm/002/020/113000c

しかし、これは2017年10月に実施された総選挙直前に降って湧いたように出てきた話でした。誰もが唐突感を持ったのではないでしょうか。

では、幼児教育・保育無償化は本当に必要なのでしょうか。子育て世帯が求めている強く施策なのでしょうか。

同施策に関する専門家の論文や記事を意識して読む様にしています。多くの専門家は「低年齢児の待機児童解消を優先すべき」と主張しています。幾つかご紹介します(一部引用)。

日本では有償でも4~5歳児の95%が幼児教育施設に在籍しています。全面無償化で保護者の負担を税金で肩代わりしても、社会全体の教育投資量の増加には直結しません。中高所得世帯が習い事や塾の支出を増やせるようになり、低所得家庭との教育支出格差が広がる可能性もあります。それよりも、保育所や幼稚園で多様な習い事ができるような質の向上に投資した方が、家庭環境による教育格差を解消する効果は大きいでしょう。

0~3歳児に関しては、都市部では女性の労働意欲向上により保育所不足が深刻化しています。この「需要超過」状況では、教育費用の低減ではなく、保育所の定員拡充など供給制約の緩和を優先すべきです。

無償化と義務化が達成されている小中学校では、質の向上に資金を使うべきです。

教育投資の優先順位を考える(7) 保育は定員、小中は質に課題 赤林英夫 慶応義塾大学教授

○1~2歳で認可保育所に通う効果大きい
○低所得層の幼児に認可保育の供給優先を
○財源捻出へ3~5歳の全面無償化延期も

保育・幼児教育で優先すべきは、まずは(1)と(2)の点から「低所得層の全入化(病児・夜間・障害児を含む)と無償化」であり、次に(3)の点から「待機児童の完全解消」だ。

保育・幼児教育の論点(上) 低所得層の全入・無償化を 柴田悠 京都大学准教授

待機児童の約9割を占める0~2歳児については、待機児童の解消が圧倒的に優先されるべき課題だ。また、「隠れ待機児童」の存在に見られるように、本来、必要とされる保育量には、供給側と需要側の認識ギャップが存在するようだ。このギャップが解消しないことには待機児童の解消は困難だろう。待機児童の解消には、より丁寧な生活者の現状把握が必要だ。

一方で政府は、女性の就業率を上げて「M字カーブ」を解消させることを目標としている。働く女性が増え、経済力を持つ女性が増えること、さらに、購買力のあるパワーカップルが増えることは、個人消費の底上げにもつながる。そのためには、何よりもまず、待機児童問題を解決し、子を生み育てながら安心して働けるような環境整備を進めるべきだ。

教育無償化について考える ニッセイ基礎研究所 久我尚子

私も同感です。無償化を検討するよりも、まずは待機児童問題を解消すべきではないでしょうか。

地方はどうなるのか?

しかし、見落としている点があります。

待機児童問題は都市部に偏った事象です。都市部以外の地方では少子化が急激に進展しており、「そもそも子供がいない」という状況となっています。

仮に待機児童問題の解消を集中的に行う場合、予算の多くは都市部へ投じられるでしょう。都市部で保育を必要とする共働き世帯へ効果が及ぶ一方、地方で子育てしている世帯には及ばないのではないでしょうか。

地方で子育てしている友人に話を聞くと、「子供が少なすぎる!」「1万円前後の保育料が負担」「無償化大賛成」「学校の先生の学力が不安」「近所に学習塾がない」「自宅から通える高校が殆ど無い、次々と廃校になった」「都市部の私立大学で一人暮らしさせる費用に悩んでいる」等の不満が噴出しました。

ここでいう「地方」とは山と田んぼが広がる田舎だけではありません。大都市の周縁部やベッドタウンであっても、子供の数が急激に減少している地域は少なくありません。

大阪市でも深刻です。少子化が進んでいる生野区は保育ニーズを満たす保育施設が整備されている一方、小中学校の大規模な統合が検討されています。

幼児教育・保育を無償化する目的は何なのでしょうか。子育て世帯が本当に求めているのは何でしょうか。課題は山積み、という印象です。