幼稚園や保育所等でのプール事故に対して消費者庁が調査を行ったところ、約4分の1の施設が国のガイドラインを満たしていない実態が浮き彫りとなりました。

プール事故対策 25%が改善実施せず 消費者事故調

7年前、神奈川県の幼稚園のプールで園児が溺れて死亡した事故を受けて、国の消費者事故調が全国の幼稚園や保育所などに安全対策の状況を聞いた結果、全体の25%余りで国のガイドラインなどに基づいた改善をしていないことがわかりました。

平成23年7月、神奈川県大和市の幼稚園のプールで当時3歳の園児が溺れて死亡する事故があり、その後、文部科学省や厚生労働省などは必ず監視役の職員を置き、十分な監視体制が確保できない場合はプール活動を中止するなどとしたガイドラインや通知を出しています。

こうした対策の改善状況を調べるため、消費者庁の安全調査委員会、いわゆる消費者事故調は全国の幼稚園や保育所などにアンケート調査を行い、合わせて2712の施設から回答がありました。

それによりますと、改善を「実行した」と「実行中」という回答が62.1%となった一方、「実行見送り」と「検討していない」を合わせると25.7%に上り、無回答は12.2%でした。

そのうえで、改善していない施設に理由を複数回答で聞いたところ、「改善の必要性を感じなかった」が43.4%、「人員が不足している」が23.2%などとなっていました。

さらに、全体の26.2%の施設が指導マニュアルを整備していなかったほか、事故対応の訓練を行っていない施設は60.2%に上っています。

消費者事故調の宇賀克也委員長は「必要な対策が現場に浸透していないことが明らかになった。監視を徹底し、それができないならプール活動を中止すべきだ」と話しています。

神奈川県の幼稚園で起きた事故のあとも、全国の幼稚園や保育園などではプールの事故が相次いでいます。

消費者庁によりますと、去年8月、さいたま市の保育園のプールで園児の女の子が溺れて死亡したほか、4年前の7月には京都市の保育園のプールで園児の男の子が溺れ、搬送先の病院で死亡するなど、神奈川県大和市の事故を含め、この7年間に全国で3人が亡くなっています。

今回のアンケートでも、子どもの治療が必要な事故が過去3年間に少なくとも37件あったほか、事故につながりかねないいわゆる「ヒヤリハット」のケースも522件あったと報告されています。

消費者事故調は、幼稚園や保育園などでのプール事故を防ぐため、施設向けのチェックリストを作りました。

この中では、プール活動に携わる職員に対して監視の際の注意点などの事前教育を十分行うとともに、事故対応のマニュアルを整備し、日頃から訓練を行うよう求めています。

さらに、指導役の職員とは別に必ず監視役の担当者を置き、監視役を確保できない場合はプール活動を中止するよう求めています。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180424/k10011415701000.html

消費者庁の安全調査委員会による調査結果は、同庁ウェブサイトに掲載されています。

平成23年7月11日に神奈川県内の幼稚園で発生したプール事故
http://www.caa.go.jp/policies/council/csic/report/report_003/

同報告書が作成される切っ掛けとなったプール事故は、3歳男児が園内プールで溺死したものです。

平成23年7月11日午前11時48分頃、神奈川県内の幼稚園で行われていたプール活動において、当該幼稚園の3歳の男児がうつぶせに浮いているのを、 プールサイドで男児とは別のクラスの園児にシャワーを浴びさせていた当該クラスの担任教諭が発見した。すぐに男児の担任教諭が男児をプールから 引き上げ、主任教諭が当該幼稚園に近接する園医に運んだ後、男児は救急搬送されたが、午後2時02分に死亡が確認された

http://www.caa.go.jp/policies/council/csic/report/report_003/pdf/131018_honbun1.pdf

実態調査報告書・意見書が公開されています

これを受け、同庁が実態調査を行い、意見書を公表しました。

特に重要なのは意見書です。同委員会が「各省が地方自治体等へ措置を求めるべき」とした内容をご紹介します(太字は独自に強調)。

(1)プール活動・水遊びを行う場合は、次の①から③までの取組を行うよう、幼稚園等に対して一層の周知徹底を図る。また、地方公共団体は、安全確保策の充実及び幼稚園等への指導監査等により、適切な監視・指導体制の確保と緊急時への備えが行われるようにする。

①プール活動・水遊びを行う場合は、監視体制の空白が生じないように水の外で監視に専念する人員とプール指導等を行う人員を分けて配置し、また、その役割分担を明確にする。水の外で監視に専念する人員を配置することができない場合には、プール活動・水遊びを中止する。

②事故を未然に防止するため、プール活動・水遊びに関わる職員に対して、子供のプール活動・水遊びの監視を行う際に見落としがちなリスクや注意すべきポイントについての事前教育を十分に行う。

職員に対して、心肺蘇生を始めとした応急手当等について教育の場を設ける。また、一刻を争う状況にも対処できるように119番通報を含め緊急事態への対応を整理し共有しておくとともに、緊急時にそれらの知識や技術を実践することができるように日常的に訓練を行う。

(2)地方公共団体は、(1)②「監視を行う際に見落としがちなリスク等の事前教育」に関し、幼稚園等がプール活動・水遊びに関わる職員に対する事前教育を効果的に行うことができるよう、園長に対する研修を実施する、プール活動・水遊びに関わる職員が専門家から学ぶ機会を設ける、マニュアル・チェックシート、危険予知トレーニングツール、事故事例紹介、DVDや動画等の必要な資料を提供するなど、必要な取組を行う。

(3)地方公共団体は、(1)③「心肺蘇生を始めとした応急手当等の教育」に関し、子供の特性を踏まえたものとなるよう、研修の実施、専門家の派遣、実施機関に関する情報提供など、必要な取組を行う。

(4)幼稚園等への啓発を通じて、プール活動・水遊びを行う場合に、子供の安全を最優先するという認識を管理者・職員が日頃から共有するなど、幼稚園等における自発的な安全への取組を促す。

2.文部科学省、厚生労働省及び内閣府は、幼稚園等で発生したプール活動・水遊びにおける重大な事故について、類似事故の再発防止のために、幼稚園等に対して情報の共有を図るべきである。また、類似事故の再発防止に活用するために、事故及びヒヤリハットの情報についても、幼稚園等や幼稚園教諭、保育士及び保育教諭に対して自主的な協力を促すなどして、収集・蓄積する仕組みを検討すべきである。

3.文部科学省は、上記1及び2の対策の趣旨を踏まえ、小学校低学年におけるプール活動・水遊びの安全確保に取り組むべきである。

同報告書は「十分な監視要員を配置できない場合はプールを中止する」を踏み込んだ意見を表明しています。また「十分な研修の実施」を強く求めています。

我が家の子供も夏場のプール活動を非常に楽しみにしています。毎日の準備や片付けは大変ですが、小さな頃から水に親しむのは重要な活動です。

しかしながら、プール活動には「安全性」が大前提です。溺れそうな児童をいち早く発見する為の監視要員を準備し、万が一にも溺れてしまった場合には早急な蘇生措置・救急搬送が必要です。

プールでの溺死に限らず、保育所等で発生した事故では「発見の遅れ」と「救急搬送の遅れ」が共通しています。もう少し早く発見できていれば、早く病院へ搬送できていれば助かったのではないか、という事故が少なくありません。

保護者であってプール活動の安全性を高める事はできます。プール活動を準備している保育士の人数を確認できれば、自ずと監視要員の数も推測できるでしょう。クラス担任だけでは監視要員を賄えません。

また、帰宅した子供に「今日はプールにどの先生が一緒にいたの?」と訊ねる方法もあります。担任の先生の名前しか出てこなかったら、少し心配です。

今後、小規模な保育所等を中心に、十分な監視要員を準備できないのを理由としてプール活動を中止にする施設が相次ぐかもしれません。子供にとっては非常に残念ですが、安全に勝るものはありません。保育補助者等を活用するのも一手段かもしれません。