待機児童対策の旗の下、保育施設は右肩上がりで増え続けています。

その陰で、保育士不足が深刻化しているそうです。とある自治体担当者は「待遇の良い隣接自治体の保育所等へ転職しているのでは無いか」と指摘しています

保育士不足、204認可園で定員減 自治体で奪い合いも

 保育士不足を理由に、今年4月時点で少なくとも全国24自治体の204の認可保育園で、受け入れる子どもの数を減らしていたことが朝日新聞の調査でわかった。保育施設の数は増えているが、自治体間の奪い合いや厳しい勤務実態から保育士の確保が追いつかず、待機児童が解消されない実情が浮かんだ。

 昨年5月の朝日新聞の調査では、保育士が確保できず定員を減らすなどした園は15自治体の118園だった。調査自治体が一部異なるが、保育士不足が深刻化している傾向がうかがえる。

 朝日新聞は今年5月、全20政令指定市と東京23区、昨年4月時点で待機児童が100人以上いた44市町村の計87自治体を対象に、昨年4月と比べて定員を削減したり、定員より少ない数で募集したりした園の数と、その理由を聞いた。札幌市、千葉市、横浜市、東京都葛飾区、高松市を除く82自治体から回答を得た。

 保育士不足が原因で、昨年4月よりも受け入れ数を減らした園があると答えたのは24自治体で196園あった。今年4月開設の施設でも、4自治体の8園が保育士不足で定員を当初の予定より減らしていた。

 兵庫県姫路市では保育士不足を理由に54園が定員を減らした。同市の担当者は「近接する明石市が、保育の無償化によるニーズの高まりを受け、待遇の改善など保育士確保策を続々と打ち出しており、保育士が移ったのではないか」と分析。4月時点の待機児童数185人のうち、63%の116人が保育士不足による定員減の影響とみている。

 14園が定員を減らしたと答えた奈良市の担当者も「通勤でき、より待遇のいい大阪市へ保育士が移ってしまう」と話す。奈良市では14園で計64人が受け入れられず、最終的に待機児童数が76人になった。このほか、那覇市の30園、水戸市の26園、沖縄県うるま市の11園など、保育士不足で定員を減らしたと答えた自治体があった。

 厚生労働省によると、保育士の登録者は11~16年度で33万人増えた一方、資格はあるが働いていない「潜在保育士」が18万人増え、16年度は計86万人いると推計される。15年10月からの1年間で離職した保育士も約2万9千人いた。国が待機児童解消のために基準を緩め、保育士1人が担当する子どもの数が増えるなど、働く環境の厳しさを指摘する意見もある。(以下省略)

https://digital.asahi.com/articles/ASL6V4D8HL6VUTFL00N.html

保育士が待遇の良い自治体・保育所等へ転職するのは、極めて自然な流れです。会社員と同じです。「待遇が良くなくても、ここで働いて欲しい」というのは時代錯誤の丁稚奉公、今風では「地元貢献という名のやりがい搾取」と言えるかもしれません。

兵庫県明石市は子育て環境の向上に注力している自治体の一つです。「保育士になるなら明石市へ」という特設ページを設け、保育士への優遇策を強調しています。


https://www.city.akashi.lg.jp/kodomo/taikijidou/2016hoikushi.html

大阪市も積極策を打ち出しています。保育人材確保対策事業として平成30年度予算では11億2600万円を計上しました。

大阪市内で保育士として働く方を支援します
・新規採用保育士特別給付に対する補助事業(最高20万円)
・保育士宿舎借上げ支援事業(借上社宅への補助、月額6.1万円まで)
・潜在保育士就職支援事業(上限40万円を貸付、2年勤務で免除)
・未就学児をもつ保育士に対する保育料一部貸付事業(1年間、月額2.7万まで、2年勤務で免除)
・未就学児を持つ保育士の子どもの預かり支援事業(年額12.3万円まで、2年勤務で免除)

http://www.city.osaka.lg.jp/kodomo/page/0000382557.html

奈良市と比べると大阪市はこうした補助が手厚く、更に地域手当(都会ほど高い)・賃金水準の高さ等もある事から、両市の保育士給与は無視できない違いがあるでしょう。

ただ、大阪市は市立保育所の保育士不足が深刻化しているという指摘があります。大阪市会(2017/09/21)で質疑が行われました。

○井上議員
利用定員の引き下げ内容は?

○葛西保育所運営担当課長
保育士人数が確保できない
保育ニーズが減少している地域を中心に、平成26-29年度で450人の利用定員を引き下げた(0-3歳児)

○井上議員
不足している保育士数は?

○葛西保育所運営担当課長
平成25-27年は保育士採用を凍結(任期付きのみ)
平成28年から再開、4年間で118人を採用できなかった

https://yodokikaku.net/?p=18441

姫路市は少し情けないです。「(規模が小さい)明石市に保育士が移った」と分析するのは、泣き言にすら聞こえます。

余談ですが、私的契約児の存在や過少給食が発覚した「わんずまざー保育園」は姫路市にありました。保育政策が上手く回っていないのかもしれません。

奈良市・姫路市以外では、那覇市・水戸市・沖縄県うるま市が「保育士不足で募集数を減らした園が多い」と回答しています。沖縄県内から2市が上位にあるのが気になります。

保育士不足で縮小運営を余儀なくされている背景には、「そもそも保育士の待遇が芳しくない、保育所等が新設されても働く保育士が増えない」という側面が非常に強いでしょう。

記事前半部は隣接自治体への流出が指摘されていますが、会員のみ(無料会員でも読めます)に公開されている後半部では「多忙による労働環境の悪化」が強調されています。

茨城県内の私立の認可保育園に勤める50代の保育士を取り巻く環境は5年ほど前から変わった。例えば散歩の前、2人の子どもに靴を履く手伝いをしていると、もう2人が目を離したすきに外に出ようとし、さらに別の2人がけんかも始める――。危ない場面は増え、つい声を張り上げてしまう。

女性が勤めていた公立の園では、保育士1人でみる1歳児クラスの子どもの数が4人だったが、今の私立園では基準並みの6人になった。仕事は多く毎年5人ほどが離職し、応募もない。「現場の悪循環に目を向けてほしい」と訴える。

 東京都足立区の女性(41)は、四つの認可園、認可外園で計11年働いた。どの園でも、1人で多くの子どもをみる忙しさから、保育の質は落ちるばかりだと感じた。ある園では、子どもが離乳食をのみ込むペースを無視して、保育士が口に運び、戻しそうになっていると「食べなさい!」と声を張り上げていた。
 
https://digital.asahi.com/articles/ASL6V4D8HL6VUTFL00N.html より引用

心配なのは保育士不足を非保育士で代替する動きが生じている事です。

【ニュース】特区の認可外保育施設は、4割の保育士を保育支援員で代替可能に

保育所にお世話になっている立場としては、「安心できる保育所」が一番です。その為には、適切な知識と経験を有した保育士が保育を行う事が不可欠です。非保育士による代替を誰が望んでいるのでしょうか。