関西の待機児童対策が進んでいます。

待機児童 関西7%減3396人 都市部、市有施設を保育所に活用

 厚生労働省が7日発表した4月1日時点の関西2府4県の待機児童数は3396人で前年に比べ7%減った。自治体は待機児童の解消に向けて保育所用地と保育士の確保を進めており、地価高騰が進む都市部では市有施設を活用する取り組みが広がる。自治体間で奪い合いとなっている保育士は待遇改善を急ぐ。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35124700X00C18A9LKA000/(以下同じ)

保育所等への入所を申し込んだ児童の内、育休中・特定保育所希望等といった理由(自治体によって差異あり)がある児童を除外した者を「待機児童」と呼んでいます。

ただ、入所できなかった全ての児童を指す「保留児童」の方が保護者の実感に近いでしょう。とは言え、待機児童数の減少は保留児童の減少も示しています。

公有地の活用等で待機児童対策が進む大阪市

平成30年度一斉入所では、大阪市でもやや入所しやすくなったと感じています。

待機児童対策に注力する大阪市は、平成30年度に非常に多くの保育所等を開所しました。基礎自治体としては全国最多ではないでしょうか。

【6/7更新】大阪市内で平成30年4月以降に開所する保育施設が発表されました!

平成31年度も多くの保育所等を開所する予定です。

【6/19更新】大阪市内で平成30年秋以降に新設・開所する保育所等を集約しました

方法の一つは「保育事業者へ公共施設や公有地を廉価で賃貸」です。

 1日に大阪市城東区に開園した「ぬくもりのおうち保育 城東中央園」。入居するのは区民ホールだった建物の1階だ。定員17人(0~2歳)でまず11人が通い始めた。4人以上の保育士が常勤し、別料金の時間帯を含めて午前7時~午後8時まで預かる。関西や首都圏、東海地方で35施設を手掛けるスタートアップ企業、SSMotherホールディングス(大阪市)が運営する。

 大阪市が市役所本庁舎や区役所などの空きスペースを使って整備した小規模保育所の一つだ。同市が公募した19カ所の運営事業者が決まり、2018年4月から17園が順次開園した。

 もともとアクセスのいい立地に割安な賃貸料を設定し、民間事業者の参入を促している。定員の合計は300人。国負担分も含めた市の施設整備補助額は2億6000万円(決定した16施設分)だ。吉村洋文市長は「(庁舎の空きスペースには)介護施設などの要望もあるが、待機児童対策を最優先する覚悟を示した」と強調する。

 SSM社は応募した4事業者の中から選ばれた。大阪市と延べ床面積84平方メートルを年間160万円で10年間賃借する契約を結び、内装などの改修に1600万円を投じた(うち1200万円は行政の補助)。上野公嗣社長は「行政施設の中に開設することで保護者の信頼度も高まる」と手応えを感じている。生野区役所内でも受託、19年4月に開園する。

新設された城東区役所内に区民ホールが併設され、もと区民ホールは閉館されていました。これを保育施設として再活用しました。

160万円という年間賃料(月額約13.3万円)は格安です。保育事業者の採算ラインは下がり、大阪市が行う公募に応募しやすくなります。

批判もあります。

住吉区(800平方メートル)の賃料は4万円弱となる、他事業者との不公平感がある
賃料の算定基準は?
→無償貸与していた保育財産を有償化した、決算書を元に収益分析法によって算出した

今後開所する事業者への賃料も見直すべきでは?
→保育所は収益力に乏しい、公募条件と異なる賃料とするのは法的に難しい

野田阪神駅直結の土地を450円で貸すのもおかしい
安すぎる

H30.6.22教育こども委員会より引用

しかしながら新設された保育施設を多くの市民が利用し、雇用や子供の成長に繋がるという好循環が生じています。

また、貸し出される公有地の多くは遊休状態でした。たとえ安い賃料であっても貸し出す事により、大阪市の収入となります。

公園内保育所・保育士待遇支援・新規採用・優先入所

他の自治体も様々な手法を利用して待機児童対策に取り組んでいます。

 大阪府豊中市は国家戦略特区制度を利用して関西初となる公園内保育所を2カ所整備し、定員160人分を確保した。17年12月に開園した「ふれあい緑地」内の保育園は受託した民間事業者に対し、敷地面積500平方メートルの占用料を年180万円に設定した。大阪府吹田市も小学校や市民プール跡、庁舎の大型駐車場などを活用している。

 関西の自治体は保育人材の確保に向けた手厚い支援策を相次いで始めた。神戸市では保育士や幼稚園教諭として働くと、7年間で最大140万円を一時金として支給する。宿舎借り上げには、月8万2千円を上限に最長5年間の賃料を補助する。大津市は7月、保育士を採用した施設に人件費を補助する制度を導入した。採用1人当たり年間ベースで300万円を支給する。29日には県外で初めてとなる保育士向けの就職フェアを隣接する京都市内で開く。

 「潜在保育士」などの掘り起こしを狙うのは奈良市。17年度から「保育補助者」の募集を始め、9人が市立保育園などで働く。保育士だけでなく教員免許などを持つが現在は働いていない人材を呼び込む。市こども園推進課の担当者は「保育を学ぶ学生を含め、少しでも経験のある人を拾い上げたい」と話す。

 京都府京田辺市は臨時職員を中心に保育士が20人近く離職した影響で17年4月に140人の待機児童が出たが、保育士の資格を持つ正規職員40人以上を新たに採用。18年4月はゼロに改善した。

上記記事で取り上げられていないのは「保育士の子供が保育所等へ優先して入所できる制度(優先入所)」です。大阪市は平成29年度から開始し、一定の効果を上げています。

【H29保育所等一斉入所申込分析】(3)保育士優先利用枠/1%台に留まる 優先枠で埋まったケースも

厚生労働省が全国の自治体に呼びかけた事により、優先入所を導入する自治体は更に増加するのではないでしょうか。

保育無償化は劇薬

 18年4月時点の待機児童数は1年前と比べて24人増えた兵庫県明石市が571人となり、市区町村で全国最多になった。関西で最も増えたのは神戸市で増加数は239人。一方、減少数が最大だったのは大阪市の260人。大阪府豊中市は121人減らし、待機児童ゼロを達成した。

 明石市は第2子以降の保育料を無料化するなどの子育て支援拡充で市外からの転入が増え、保育所などの受け皿整備が追いつかない。解消に向け、19年4月に2000人の枠を一気に確保する。

 神戸市では保育所などの入所希望者が2万8232人と前年比675人増えた。久元喜造市長は「過去5年で定員を6000人広げたが、女性の就業率上昇などで利用希望者が上回っている」と説明する。地価上昇で保育事業の新規参入が難しくなっていることも響いた。19年4月には保育所などの定員を1600人増やす予定だ。

 90人増えた西宮市は「復職を希望する女性などが増えたため」(市の担当者)という。18年度は過去最大の8カ所の保育所(定員約600人)を新設する。

子育て支援政策を全面的に打ち出している明石市は、第2子以降の保育料を無料にしたそうです。様々な施策の結果、多くの子育て世代が転入し、保育所等の整備が追いつかなくなっています。

同じ事例は守口市で生じています。全ての児童の保育料を無償とした結果、申込数が40%も増加しました。待機児童も急増しています。

【日経新聞より】「保育無償化」効果と課題 大阪・守口市

保育無償化は劇薬です。

国レベルでは2019年10月から「幼児教育・保育無償化(3歳児以上は全面的、2歳児以下は所得制限あり)」を導入する予定としています。

4-5歳児はほぼ全員が幼稚園や保育所等に登園しているので、利用者が急増する恐れはないでしょう。

しかし、3歳児は少し違います。申込者が急増し、受け入れられない施設・地域が生じるのではないでしょうか。

小学生以降の支援策も!

子育て支援策が充実している自治体は非常に魅力的です。しかし、ターゲットを未就学児に置きすぎてしまうと、小学校入学と同時に転出する動きを促しかねません。

こうした動きは大阪市で起きていると感じています。保育所等を新設し、幼児教育無償化(4-5歳児、H31より3歳児拡大予定)を導入しても、子育て世帯には「大阪市の学力低迷」が重くのし掛かります。

【H30学力テスト】大阪市が2年連続で全国最下位、上位は北陸・東京・京都市・広島県、下位は愛知・滋賀・相模原

未就学児のみでなく、小学生・中学生・高校生等を育てている家庭の琴線に響く支援策も重要ではないでしょうか。

少子化の一因は「子育てにお金が掛かりすぎる事」です。子育て世帯の経済的負担を緩和(できればゼロ)し続けない限り、少子化は進むばかりです。