幼児教育無償化の内容がほぼ確定しました(認可外保育を除く)。新聞報道等を基に、幼児教育無償化の内容をまとめた表を作成しました。

年齢種別現行の保護者負担無償化案での負担
0-2歳児認可保育所等(3号認定)応能住民税非課税世帯のみ無償化(月額4.2万円まで)
認可外認証保育所等応能変わりなし?
企業主導型応益変わりなし?
それ以外の認可外応益変わりなし?
家庭保育無し無し
3-5歳児認可保育所等(2号認定)応能無償化
幼稚園(1号認定)応能無償化(月額2.57万円まで)
幼稚園(預かり保育)応益無償化(月額1.13万円まで)
認可外・ベビーシッター等応益無償化?(月額3.7万円まで)
家庭保育無し無し

幼児教育無償化によって何が変わるのでしょうか。いち早く導入した自治体で生じている実例から考えてみます。

習い事に通う児童が大幅に増加?(大阪市)

大阪市では平成28年度から5歳児、平成29年度からは4歳児の教育費が無償化されました。平成31年度からは3歳児も無償化される予定です。

【大阪市政】平成29年度から4歳児も教育費無償化へ

具体的には幼稚園保育料の全額、保育所保育料の約半額を無償としています。これにより、世帯収入が高い世帯では保育料が約2万円(幼稚園)・1.37万円(保育所)ほど引き下げられました。

【教育無償化】保育所5歳児保育料は上限13,700円・幼稚園3-4歳児は階層細分化

これに影響を受けたと思われる出来事の一つが、「習い事へ通う児童の増加」です。

我が家がお世話になっている保育所では、以前から習い事に通っている児童が少なからずいました。よく聞いたのは、水泳・バレエ・空手・公文・英会話・そろばん等でした。

しかしながら、大阪市で幼児教育の無償化が導入されて以後、習い事に関する話を聞く頻度が格段に増えました。実際に通っている児童の話や名前を聞く機会も増えています。

通わせている習い事の種類に大きな変化はありません。上の子は習っていなかったのに下の子は習い始めた、習い事の数を増やした等、以前より多くの児童が更に多くの習い事に通っている気配を感じています。

忙しい家庭も増えています。共働きの合間をぬって習い事へ通わせるのは大変です。勤務時間を調整した、ファミサポをお願いした、祖父母をフル活用している、という話をよく聞きます。

一定以上の世帯所得がある世帯では、教育無償化によって減ぜられた保育料がそのまま習い事へ流れていると推測しています。

その反面、世帯所得が低い世帯では減ぜられた保育料は非常に小さい金額です。習い事に通わせるだけの金額に足りていないでしょう。生活費の一部に消費されてしまっていると考えられます。

結果として、大阪市が導入した教育費無償化は子育て世帯の負担を軽減したものの、私的に負担できる教育費の格差を拡大させた側面が非常に強いと感じています。

国が導入する予定なのは、保育料相当額の無償化も含んだ教育無償化です。大阪市の教育無償化と比べ、世帯所得によって軽減される金額は概ね倍額に達するでしょう。高所得世帯を中心に、習い事やお受験の費用に注ぎ込まれる可能性が濃厚です。

入所保留児童が激増(大阪府守口市)

国よりいち早く全児童の保育料を無償化したのは、大阪府守口市です。

【日経新聞より】「保育無償化」効果と課題 大阪・守口市

予想されたとおり、申込数は急増しました。導入前後を比べると、約40%も増加しました。待機児童数も激増しました。

入所できた家庭は保育料無償化の対象となりますが、できなかった家庭は対象外です。強い不公平感も生じたそうです。

国が導入を予定しているのは、3-5歳児の教育無償化・0-2歳児の教育無償化(住民税非課税世帯に限る)です。

殆どの3-5歳児は既に保育所や幼稚園等に登園しています。教育無償化が導入されても、入所希望者が著しく増加する事態は生じないでしょう。

また、住民税非課税世帯の保育料は以前から低い額(月額0円~数千円)に抑制されています。教育無償化によっても保育料は大幅に変動せず、申込数に及ぼす影響は軽微な物でしょう。

監督基準を満たさない認可外が淘汰?(大阪市)

大阪市は一定の基準を満たした4-5歳児に対し、認可外保育施設(一部)の保育料も無償化しています。

【大阪市政】認可外保育施設(基準あり)も4-5歳児教育費無償化へ

2つの類型が設定されています。1つは「利用保留児童が証明書等を交付されている認可外保育施設を利用」、もう1つは「証明書等を交付され、かつ一定の教育の質を有する認可外保育施設を利用」です。

前者は保育所等へ入所できなかった児童の救済措置、後者は一定の教育の質を有する認可外保育施設の利用促進が狙いでしょう。

いずれの類型に共通しているのは「証明書等が交付されている施設」です。証明書とは「認可外保育施設指導監督基準を満たす旨の証明書」を示しています。基準を満たした施設の利用へ誘導する事によって基準外の施設の利用を敬遠させ、基準を満たす施設の増加を図っているのでしょう。

教育無償化の対象となる認可外保育施設の範囲は、まだ定まっていません。指導監督基準を満たしていない認可外施設も無償化対象とする国の方針に対し、地方は「保育の質が担保されない」と反発しています。

認可外保育施設の無償化範囲、条例での制定を検討
https://www.asahi.com/articles/ASLD43CQ6LD4UCLV001.html

大阪市が導入している(=地方が主張している)方法が導入された場合、証明書を交付されていない施設は保護者から敬遠されるのは間違いないでしょう。無償化適用の有無は決定的な要素です。

悪かろう高かろうの保育施設と良かろう安かろうの保育施設、どちらを選ぶかは明白です。指導監督基準を満たさない認可外保育施設が淘汰されていくと考えられます。

幼児教育無償化は子育て世帯(主に中高所得世帯)への所得再分配機能が強い

幼児教育無償化の目的は「人づくり革命」でした。

我が国は、健康寿命が世界一の長寿社会を迎えており、今後の更なる健康寿 命の延伸も期待される。こうした人生 100 年時代には、高齢者から若者まで、 全ての国民に活躍の場があり、全ての人が元気に活躍し続けられる社会、安心 して暮らすことのできる社会をつくる必要があり、その重要な鍵を握るのが 「人づくり革命」、人材への投資である。

「人づくり革命」では、第一に、幼児教育無償化を一気に加速する。3歳から5歳までの全ての子供たちの幼稚園、保育所、認定こども園の費用を無償化する。加えて、幼稚園、保育所、認定こども園以外についても、保育の必要性 があると認定された子供を対象として無償化する。0歳から2歳児については、待機児童解消の取組と併せて、住民税非課税世帯を対象として無償化を進める。

子育て世帯を応援し、社会保障を全世代型へ抜本的に変えるため、幼児教育の無償化を一気に加速する。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/043/siryo/__icsFiles/afieldfile/2018/07/06/1406687_3-2.pdf より一部引用

幼児教育の無償化が人材への投資に繋がるのでしょうか。

私の周囲で発生しているのは、「保育所外・幼稚園外での習い事の増加」です。教育費無償化によって得られた経済的余剰を利用して、各家庭が子供へ個別に投資している姿です。

確かに「人材への投資」です。しかし、投資できる内容は各家庭の経済状況によって大きく左右されます。幼児教育無償化によって経済状況は更に大きく開きます。

経済的に見ると、幼児教育の無償化は全世帯から未就学児を育てている世帯への所得再分配としての側面を有するでしょう。

一方、未就学児を育てている世帯のみに着目すると、幼児教育無償化による所得再分配によって世帯間の格差を促進させます。低所得世帯での経済的メリットは小さく、世帯所得が高いほどのメリットが飛躍的に大きくなります。

保育所には様々な世帯所得がある家庭が集っています。口に出してこそ言いませんが、例えば自動車のメーカーや車種を見れば自然と分かります。

同じ子育て世帯でもこれだけの違いがあって良いのか、その違いが更に大きくなって良いのか、疑問が募るばかりです。

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(12/21追記)

これを裏付ける記事が東京新聞に掲載されました。

 政府が来年十月から予定している幼児教育・保育の無償化で、対象となる子育て世帯の所得階層ごとにかかる費用の内訳が二十日、分かった。内閣府が子どもの人数や世帯年収を基に試算した。認可保育所の場合、住民税非課税の低所得世帯に充てられるのは費用全体の1%にとどまる一方、年収六百四十万円を超える世帯に50%が配分されるとの結果だった。

 低所得世帯には既に減免措置が導入されているほか、もともと保育所の利用料は収入が多いほど高くなる仕組みのため、結果的に高所得層が恩恵を受ける形となった。政府は無償化を、保護者の収入にかかわらず幼児教育や保育の機会を保障する仕組みだと強調するが、野党は「金持ち優遇策だ」と主張しており、批判を強めそうだ。

 試算によると、認可保育所の無償化には全体で年四千六百六十億円かかる。所得階層別に配分額を見ると年収約二百六十万円までの非課税世帯には計五十億円(全体の1%)、三百三十万円までに計百七十億円(4%)など。約四百七十万円を超え約六百四十万円までの世帯には計千五百二十億円(33%)、六百四十万円を超える世帯に計二千三百二十億円(50%)だった。

 生活保護世帯は現在も利用料が免除されているので、無償化に伴う新たな費用は生じない。幼稚園についても試算しており、同様に所得の高い層ほど配分される費用が多くなる傾向だった。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201812/CK2018122102000153.html

こうした内容は導入前から明白でした。中低所得世帯の子育ては厳しくなるばかりです。
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