日本経済新聞が待機児童問題に関する連載記事を掲載しています。
企業の生産力に直結する女性就労と待機児童、企業や経済活動にとっても無視できません。

(迫真)待機児童ゼロの日(1)横浜、2年目の試練

2014/4/7付 日本経済新聞 朝刊

 「親子3人で暮らす生活はまたお預け」。岡山市で長男(3)と暮らす辻久美(34)はため息をつく。夫の明宏(36)は長男が生まれて間もなく横浜市に転勤した。久美も働いており、ついていけなかった。「横浜に保育園が見つかったら、すぐ追いかけるから」。そのとき交わした約束は今春もかなわなかった。

 同居の願いを待機児童問題が阻み続ける。とりわけ今回ショックが大きいのは、2013年5月に夫婦が胸躍らせるニュースがあったからだ。横浜市長の林文子(67)が「待機児童がゼロになりました」と記者会見で高らかに宣言した。「今なら入れる」。期待を胸に保育所を探し続けたが、現実は厳しかった。

 市に問い合わせても保育園に見学に行っても「定員いっぱいです」と予想外の答え。ゼロ宣言で、久美と同じように保育を求める子育て世帯が流入。子どもを預けて働こうとする人も増えた。転入届も済ませていない久美は完全に出遅れた。

 保育園への入所希望が集中する4月。昨年は認可園に入りたくても入れない待機児童が全国で約2万3千人に達した。自治体の解消策の成果が問われる今春、衆目を集めるのが横浜市だ。

 10年4月に全国最多(1552人)になりながら、3年で解消した。企業の参入を促したり、空きのある保育施設を紹介する保育コンシェルジュを設けたり。その手法は「横浜方式」と呼ばれ、待機児童対策に取り組む政府が参考にしたほど。見習った福岡市も1日、待機児童ゼロを達成した。だが横浜市は今、2年目の試練に直面する。

 「あきらめずにがんばろう」。横浜市が3月上旬に開いた保育コンシェルジュの連絡会議。保育対策課長(当時)の佐藤英一(55)が口火を切った。4月入所を希望しながら審査に漏れた児童は2953人と、1年前より3割増えた。昨年は保育コンシェルジュがフル稼働し、保育施設をあっせん。4月時点の待機児童ゼロにつなげた。だが今年は「紹介したくても施設が足りない」。

 市の14年4月開所の保育園整備予算は24億円と1年前の3分の1。佐藤は「期待の高まりを読み切れなかった」と悔やむ。

 「非常に厳しい状況だが、最後まで対策に取り組む」。1日の横浜市長の定例記者会見。待機児童の状況を問われた林は数字の明示を避けた。

http://www.nikkei.com/article/DGKDASFE01018_R00C14A4PE8000

大阪市内でも待機児童問題は深刻ですが、首都圏は更に深刻な状況となっています。
あああによると、大阪市内で最も保育所へ入所するのが難しいと考えられる中央区西区阿倍野区の状況が、首都圏中心部(23区やその周辺都市)における平均的状況とほぼ同じだと推測されます。
フルタイムでもどこにも入所できないとなると、上記3区以上に入所が困難でしょう。

「横浜方式」とはどういったものでしょうか。
横浜市HPから概要を引用します。

【4つの具体的施策】 ~「量の提供」から、「選択性の高い総合的対応」へ~

1:保育所整備に加え、横浜保育室や家庭的保育など多様な保育サービスの展開
 ○「緊急整備地域」の設定(整備費補助額を1.5倍)
 ○土地・建物所有者と保育運営事業者のマッチング
 ○不動産物件情報の提供
 ○横浜保育室の賃料補助の増額(賃料水準が高く保育室の整備が進まない地域について、家賃助成額の上限を引き上げ)
 ○NPO法人等を活用した家庭的保育(マンション等の賃貸物件を活用)
 ○幼稚園預かり保育(平日型を導入)
 ○横浜市預かり保育幼稚園と横浜保育室との連携モデル
 ○乳幼児一時預かり事業(理由を問わず1時間300円)
 ○送迎保育ステーションの整備
 ○新設保育所の4・5歳児保育室を活用した、定期利用一時保育

2:多様なサービスを、適切に保護者と結びつける
 ○保育コンシェルジュの配置
 ○「教えて!すくすくん」リーフレットの作成
 ○外国人保育所入所保留者への通訳

3:区を主体とする推進体制の整備
 ○待機児童対策に取り組むための推進体制
 ○保育所入所事務改善モデル(平成24年度6区モデル、25年度全区)

4:保育サービス間で不公平感のない、適正な料金設定
 ○認可保育所の保育料金見直し
 ○横浜保育室保育料に対する補助の拡大

5:その他
○保育士確保のための就労支援

http://www.city.yokohama.lg.jp/kodomo/kinkyu/jidou.html

運営事業者への賃料補助、保育所の新設・横浜保育室・空き施設の有効活用によって保育サービスの供給量を可能な限り増大させ、保育コンシェルジュによって保護者とのマッチングを行って定員未充足施設への入所を促したのが主たる施策でしょう。

2013年5月時点で「待機児童ゼロ」が宣言されました。
しかしながら、一方でこうした批判もあります。

(中略)
 しかし、横浜方式については、下記の点で問題があると考えます。
●待機児童「ゼロ」ではありません(保育所に入れず育休を延長した人や、横浜市から直接補助の出ていない認可外保育施設に入所している児童などをカウントしていません)
●認可保育所や横浜保育室が、国基準より低い基準で運用されています
●急速な営利企業の参入には不安があります(全国的にみると企業立の認可保育所は全体の約2%ですが、横浜市は26%と突出しています)
●待機児童を抱えながらも、公立保育所の民営化をすすめています
(以下省略)

待機児童解消実現に向けて「横浜方式」に対する見解と私たちの提言 全国保育団体連絡会 より

保護者の感覚では「希望した保育所のいずれにも入所できない=待機児童」であるところ、育休延長・認可外保育施設の利用等によって保育所以外の居場所を確保したケースや希望した特定の保育所以外は入所できた場合は待機児童から外して集計する自治体が見受けられます。
多くの自治体では上記のケースも待機児童として集計しており、実態が分かりにくくなると同時に自治体間での比較が著しく困難になってしまいます。
また、保育所や保育室を国基準より低い基準で運用し、同時に営利企業の参入を促しているのは保育所運営費の削減も視野にあると推測されます。
私は営利企業による保育所運営や公立保育所の民営化には中立的な立場ですが、運営費の削減や民営化によって保育の質が低下しない様、自治体による監査・監督は入念に行って欲しい所です。

 仕事と両立するため、子の預け先を探す保護者の苦闘は想像を超える。

 「転居費用100万円。予定外の出費だ」。東京都内に勤める会社員(36)は3月上旬に東京都目黒区から川崎市に引っ越した。昨年、長女が誕生。区で保育園に申し込んだが希望した3園すべてで選に漏れたためだ。

 妻(38)の職場復帰は4月に決まっている。四方八方手を尽くし、妻の実家がある川崎市で認可外保育園の空きをようやく見つけた。見学した足で申し込みを済ませ、転居先を探した。「夫婦ともにフルタイム勤務。入れないはずはないと高をくくっていた」と明かす。

 預け先が見つからない親らはいらだち、各地で怒りの声を上げ始めた。

 「陳情は全会一致で可決されました」。東京都小金井市議会で3月24日、保護者らが提出した待機児童の緊急救済措置を求める陳情が可決された。東京都品川区や武蔵野市、さいたま市では親たちが集団で入園不承諾の異議申し立てを行った。

 「個々で発言しても状況は変わらなかった。でも一団として行動すれば自治体を動かせる」。そう話すのは東京都杉並区の保護者らが結成した「保育園ふやし隊@杉並」事務局の増田宣佳(37)。昨年、各地に広がる異議申し立ての先べんを付けた。申し立ては区を動かし、ここ1年で認可外保育園を含め約1千人の受け入れ枠を拡充した。

 それでも、増田の子は今年も認可園に入れなかった。これからも待機児童ゼロに向け、仲間と行動し続ける覚悟だ。

 「女性が輝く日本へ」を掲げる安倍政権。その基盤となる保育園整備では、17年度末までに40万人分の受け皿を増やし待機児童を解消すると約束した。実現に向けた動きを追う。

(敬称略)

http://www.nikkei.com/article/DGKDASFE01018_R00C14A4PE8000

待機児童問題が深刻なのは、受け皿が保育所にほぼ限定されている0-2歳児です。
この年齢は育児休業からの復職に重なります。
新聞記事にもある通り、育児休業からの復職までに預け先が見つからなければ、最悪のケースではキャリアを継続してきた仕事を失いかねません。
また、こうなる可能性を見通して、初めから出産を検討しない夫婦(特に高いキャリアを積んできた女性)が増えているのも少子化の一因でしょう(統計を見る限り、最大の原因は未婚化の増加でしょう)。

余談ですが、周囲の友人や夫婦を見ていると、女性のキャリアや学歴が高ければ高いほど結婚しない&子供がいない傾向が見受けられます(あくまで印象論です)。
結婚せずとも経済的に問題ない&出産による逸失利益が大きすぎるのが一因でしょうか。

大阪市でも保育所への入所申込率が上昇している気配があります。
H25とH26を比較すると、0歳児では約2.1%上昇していました(詳細はこちら

H27は更なる上昇が予想される一方、認可保育所や小規模保育施設の増設による定員増が予定されています。
大阪市も可能な限りの手を打っている様子ですが、待機児童問題を解消するには至っていません。
特に大規模な再開発等によってファミリー層が一気に流入する地域は深刻化が予想されます。
大阪市は局所的な動きですが、都市部全域に人口が流入している首都圏では深刻でしょう。