保育スタッフがご自宅まで訪問して病児の保育を行う「訪問型病児保育」につき、大阪市と淀川区がそれぞれ別の事業を行おうとしています。

訪問型病児保育「大阪市型」か「淀川区型」か…定着・普及めぐり同一自治体内で「競争」の異例サービス合戦
2014.8.24 18:00

政府が成長戦略の中心に位置づける「女性の活躍」だが、働くママたちにとって仕事と育児の両立の壁となるのが子供の急な病気や発熱だ。共働きの核家族で子育てするケースが増え、「病児保育」のニーズが高まるなか、大阪市が9月、政令指定市で初めて事業者が保育スタッフを病児の自宅に派遣してケアする「訪問型病児保育」に一部の区で乗り出す。ただ同様のサービスは同市淀川区では公募区長の独自施策として導入しており、市の制度と料金や使い勝手などを競う。果たして働くママはどちらを選ぶのだろうか-。

「病気の子供を預かってほしいというニーズは高い。誰でも必要なときに使える制度にしたい」

訪問型病児保育の事業を進める大阪市子育て支援部の三谷真彦管理課長は、こう説明する。

訪問型は、市が委託した事業者が保育スタッフを病児の自宅に派遣してケアするサービス。7月の説明会にはベビーシッター会社など7事業者が参加したが、実際に応募したのは1医療法人のみ。市はこの医療法人を事業者に選定し、9月にまず市内3区以上で事業をスタートする。応募がふるわなかった理由は分析中というが、「病児保育は利益を出すのが難しい」(市担当者)ことが考えられるという。

現在、多くの保育所は乳幼児に37・5度以上の発熱がある場合、熱性けいれんや病状の急変の恐れがあるため保育を断るか、保育中であっても保護者に引き取りを要請する。度重なれば子供の病気で仕事を休みがちになり、仕事を続けられなくなる。

こうした病児の受け入れ先としては、まず病院や保育所に併設された「施設型病児保育」がある。多くの自治体に設置され、大阪市でも年間で延べ1万人が利用。市によると、「近くに施設を」との要望は絶えずあり、年延べ2万人のニーズがあるとみている。

ところが、施設型には看護師と保育士を1人ずつ常駐させるのが条件。子供の病気は突発的なため受け入れ人数の変動が激しく、キャンセル率も高いなど運営は難しい。このため増設も進まないのが、市が訪問型導入に踏み切った背景にある。

そもそも訪問型は平成23年4月、保育事業を所管する厚生労働省の「病児・病後児保育実施要綱」に登場し、国の補助が受けられるようになったサービスだ。

自治体が導入する場合、国が委託料の3分の1(671万円が上限)を補助する。ただ、こちらも保育スタッフは看護師か保育士資格、または研修を受けた「保育ママ」などの有資格者に限定している。利用頻度が一定ではない病児保育で、人材を常駐させるコストに加え、現場では保育士不足が深刻化しているため有資格者の確保は事業者にとって高いハードルだ。

もう一つのハードルは利用料金だ。大阪市がスタートする訪問型の1日(午前8時~午後5時)の料金は7800円。確かに大手ベビーシッター会社の1万5千~3万円と比べると低価格だ。ただ、施設型の2100円を考慮すると、訪問型を利用できる経済的余裕のある利用者は限定的だ。

三谷課長は「ひとり親世帯や低所得層は約半額の4千円程度に抑え、事業者には市が補填(ほてん)していく。民間ベビーシッターに手が出なかった人たちにも利用してもらいたい」と力を込める。

一方、同じ大阪市内でも淀川区では「病児保育施設が近所にない」「定員があり、利用できなかった」との声が上がり、公募区長が25年度に独自施策として訪問型を導入した。ただ、1年目は利用者に所得制限を設けたことや、利用者に区と事業者の両方に登録することを求めるなど「共働きの中間所得層が使えない状態だった」(区担当者)ため、利用者は5人にとどまった。

このため、26年度に利用者と区が1回分の料金を含む月会費を負担し合う「共済型」に転換。利用者は1カ月で3240円を払えば、月に1回の利用ができる仕組みにした。2回目以降は、1時間1080円の利用料がかかるため、市の方式とは異なり、利用頻度によって負担額は変わってきそうだ。

今年4月からは市内全域で病児保育を手掛けるNPO法人「ノーベル」(大阪市中央区)に委託し、登録会員は現在約50人。保育スタッフは看護師や保育士のほか、子育て経験のある主婦ら30人を確保し、当日午前8時までの依頼に100%対応している。

ノーベルの高(こう)亜希代表理事は「行政と協力しあうことでひとり親世帯や低所得層にも利用を広げられた」と語る。

ノーベルは、市の制度では月会費制に対する補助がないため応募を見送ったというが、「訪問型だけでなく施設型も含めたネットワークをつくり、大阪市全体で利用しやすい環境にしていけば、子供を産んでも働き続けることをサポートできる」と指摘している。

ただ、本来であれば、市と区で別々のサービスを提供することはないが、訪問型をめぐっては公募区長制度で認められた独自施策が先行している。

こうした事態に、大阪市の橋下徹市長は5月の市議会で「市の事業と、淀川区モデルと併せて特徴ある施策として進めていきたい」と答弁、淀川区では市民の選択肢として両方を進める姿勢を示している。

さらに淀川区には市内の複数の区から導入を見据えて視察希望が寄せられているという。つまり、市のサービスよりも利用者のニーズに合っていると判断されれば、淀川区の制度が市内で普及する可能性もあるのだ。市のモデル事業が共働きの子育て世代に必要なサービスを提供できるかが問われるが、いずれにしても働くママたちの声が市と区の「ガチンコ勝負」の行方を左右しそうだ。

http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/140820/wlf14082017040014-n1.htm

病児・病後児保育は施設型として行われるのが一般的です。
大阪市では「病児・病後児保育事業」とし、市内31の保育所や診療所等(病児保育は8施設)で行っています(詳細はこちら)。
利用料も1日2,000円と決して高くありません。
しかしながら、地域によっては近所に施設がなくて利用しにくい場合もあるでしょう。

一方、淀川区や大阪市が展開する「訪問型」は異なります。
委託先の保育スタッフが利用者の自宅へ訪れ、住み慣れた自宅で病児・病後児の保育を行います。
病気で体調が優れない子どもを無理に外出させずに済むのが大きなメリットだと感じます。

簡単ですが、各サービスの内容や利用料金を一覧表にまとめてみました。

実施主体大阪市大阪市淀川区ノーベル(H30.8更新)
事業名施設型病児
・病後児保育
訪問型病児保育
モデル事業
訪問型病児保育事業
(共済型)
ノーベルの
病児保育
実施エリア市内各施設市内一部のみ淀川区内大阪市・吹田市・その他広域
種別施設型訪問型訪問型訪問型
入会金無料無料無料15,000円
月会費無料無料3,000円3,000円~(年齢・直近の利用回数で変動)
利用料2,000円/日7,800円/日1,000円/時1,600円/時
減免等所得によって減免あり所得によって減免あり毎月初回は無料毎月初回は無料
委託先病後児は市内31施設
病児は8施設
社会医療法人真美会NPO法人ノーベル自主事業

保育所を利用している共働き世帯、特に近場に実家がない世帯にとって、子供の病気は本当に切実な問題です。0歳児クラスの時は年間2ヶ月近く、1歳児クラスの時は年間1ヶ月強ほど休んだ様な記憶があります。

真っ先に驚いたのは、淀川区がNPO法人ノーベルに委託して行っている訪問型病児保育事業(淀川パック)の料金設定です。
ノーベルが自主事業として提供している病児保育と比較すると、料金は概ね半額程度に抑えられています(差額分は淀川区が補助しているのでしょう)。

毎月2回目以降の利用はやや躊躇してしまいますが、月1回の利用であれば月会費に含まれるので負担感は強くありません。淀川パックの成立過程やサービスの詳細はこちら(ノーベルのブログ)をご覧下さい。

一方、大阪市が展開しようとしている訪問型病児保育モデル事業は利用料が1日7,800円とされています。この料金設定の場合、利用料が1日の給与を上回ってしまう方が決して少なくないでしょう。

タクシー等を利用してでも病児・病後児保育を行っている施設へ連れて行った方が安くなりそうです。利用するのは1日分の給与で利用料がまかなえる、相当の給与を得ている方に限られるのではないでしょうか。

根本的な部分として、子どもが病気になっても休みにくい労働慣行に問題があるのではないでしょうか。

重要な会議等があって休めない場合もあります。子どもの病気が長期間に渡った場合、職場に穴を空け続けるのも難しいのが現実です。

一方、職場の理解が乏しくて子どもの体調不良を理由に休みにくい、ご主人に仕事を休んで看病して欲しいが職場の雰囲気的にとても言い出せない、パート・アルバイト労働なので休むと賃金が目減りする、と考えている方もいるでしょう。

制度上は有給休暇・看護休暇等がありますが、悲しいかな、制度の有無と利用の可否は別物なのが現実となってしまっています。

お子様が体調を崩した時、普段の様子を知っている両親か身内の人間が看護するのが一番かと思います。我が家の場合だと短期間の場合は私が面倒を見て、感染症等で長期に渡る場合は実家で看てもらっていました。

子どもの病気を理由に職場を休める雰囲気や後押しする制度設計が必要なのかもしれません。少子化・子育てしにくい社会となった一因は、ここにもあるでしょう。

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(8/30追記)
大阪市が行う訪問型病児保育の詳細が明らかになりました。
9月から都島、旭、鶴見で行い、来年3月までには東成、生野、城東で行う予定となっています。

大阪市、1日から3区で訪問型病児保育