平成28年4月入所に関する大阪市保育所等一斉入所の変更期間(希望保育所の追加・変更や不足書類の提出)が終わりました。入所面接も全て終わったでしょう。

今年は昨年以上に多くの方から「○○区の分析内容を掲載して欲しい」「○○保育所へ入所できそうか不安」といった数多くの問い合わせを頂きました。頂いた問い合わせ数が余りに多く、返事をお送りするまでに長い時間を頂いたのは反省材料です。

今回は一斉入所手続へ統合された「地域型保育事業」について取り上げてみました。

地域型保育事業への申込手続が一斉入所手続へ統合された

平成27年度の一斉入所手続では地域型保育事業(小規模保育・家庭的保育等)の制度設計や準備等が間に合わず、一斉入所の二次調整と併せて入所申込が行われました(詳細)

これにより保育所・認定こども園・地域型保育事業への入所手続が一度で済む様になりました。一方で短い間で希望保育所等や順位を決めなければならず、手続期間中はこれまで以上に多くの施設を次々と見学しなければならなくなりました。

同じ手続で行われる様になり、入所希望者の動向も同じ土俵で比較できる様になりました。明らかになったのは「小規模保育事業は第1希望で殆ど選ばれていない」という実態でした。

地域型保育事業は第1希望で殆ど選ばれていない

ある程度予想はしていましたが、数字で見ると予想以上に選ばれていませんでした。待機児童問題が市内で最も深刻な地域の一つである西区(1歳児)を例に挙げてみます。

西区1歳児の入所希望者は281人、募集予定数は104人です。内、募集予定数の合計が14人である地域型保育事業を第1希望としたのは8人でした。残りの270人余りは保育所、特に0-5歳までの保育を一括して行っている保育所を第1希望としました。一部の保育所では募集予定数の4倍以上の第1希望が集まっています(詳細)

地域型保育事業ができる前から、5歳までではなく2歳まで・3歳までの限られた年齢の保育を行っている保育所は第1希望として選ばれにくい傾向がありました。入所に必要な点数もやや低くなっていました。

卒園後の入所先に不安を抱えている

理由は明らかです。「卒園後は他保育所・幼稚園等へ転所しなければならない」「再び保育所等を探さねばならず、しかも希望する園に入園できるか分からない」「きょうだいがいる場合、必然的に2カ所保育となる」が特に強い理由でしょう。これは各施設の問題では無く、制度設計の問題です。

制度設計においては「小規模保育を卒園した後は、日頃から協力しあっている連携施設へ入所出来る様にする」とされていました。しかし、現実には連携が進んでいません。連携施設に設定されているのは、多くは市立保育所です。

大阪市こども・子育て支援会議教育・保育部会会議での資料によると、連携が進まない理由として「保育所等が不安を持っている」「保育士不足」「保育所の3歳児定員不足」「長時間の預かり保育を実施できない幼稚園もある」が挙げられています。

幼稚園による小規模保育事業の実施がカギか

では小規模保育事業が積極的に選ばれるには、どうすればよいのでしょうか。カギは「卒園後の受け入れ先」です。既に多くの保育所がギリギリまで園児を預かっており、保育士不足が深刻な中で更に多くの園児を保育するのは難しいでしょう。となると、入所希望者が減少傾向にある幼稚園がカギです。

実は大阪市では「幼稚園による小規模保育事業の実施」に向けて、水面下で検討が進められている気配があります。こども・子育て支援会議教育・保育部会会議にて、大阪市こども青少年局保育企画課の担当係長が作成した資料が提出されています。

・認定こども園併設の小規模保育事業は認めない
・国の方針としては、認可基準を満たせば幼稚園に併設して小規模保育事業を実施することは可能
・大阪市としては、幼稚園に併設して0~2歳児の定員を設定する場合、認定こども園になるのが基本
・しかし、大阪市は1歳児待機児童が極めて多い
・国の指示によって私立幼稚園へ小規模保育事業実施希望に関する意向調査を行った
・幼稚園に小規模保育施設の併設を認める様に団体から要望がある
・これらを受け、幼稚園における小規模保育事業の実施を認めてはどうか

幼稚園による小規模保育事業の実施について より抜粋

目から鱗です。認定こども園への移行には様々な障壁がありますが、幼稚園に小規模保育事業を併設する限りにおいてはハードルは低そうです。

保育所と比較すると、人員が限られる多くの小規模保育では保育時間が限られており、フルタイムで働く世帯のニーズと合致しないのが実情でした。保育時間に着目すると、むしろ幼稚園+預かり保育との親和性が高いと感じていました。

であれば、幼稚園に小規模保育を併設してそれぞれの保育時間を同一とすれば、その時間での保育を希望し、かつ幼稚園への進学を希望している世帯が積極的に希望すると推測されます。

「幼稚園と小規模保育の併設」は子育て世帯にとってもメリットが大きいです。きょうだいを育てていても、送り迎えが1カ所で済むのは本当に助かります。

保護者負担の軽減が求められる

ネックは保護者負担です。小規模保育に関しては、保育所と別の保育料と設定するのが一つの方法でしょう。施設規模で保育所に劣る以上、保育所より低い保育料を設定する合理性はあります。

大阪市も含む殆どの自治体では所得に応じて同一の保育料としていますが、しかし横浜市では、認定こども園・保育所と地域型保育事業の保育料を別としています。

横浜市の保育料表によると、例えば市民税所得割額が138,601円~169,000円(D10階層)までの世帯の場合、3枚未満児・第1子・標準時間の保育料は保育所が38,000円、そして地域型保育事業は35,000円となっています。ばらつきはありますが、概ね1割前後の違いがあります。

また、保育所と幼稚園(新制度へ移行していない園)で保護者負担も大きな違いがあります。幼稚園就園奨励費補助金や私立幼稚園幼児教育費補助金があるとは言え、幼稚園は預かり保育の費用もやや高く、保護者負担の違いは無視できません。小規模保育・幼稚園への「相対的な割高感」を払拭する必要があるでしょう(特にシビアな大阪では)。

保育所を希望する世帯にもメリットが

地域型保育事業がより選ばれる様になると、当初から保育所のみを希望している世帯にもメリットが生じます。長時間保育を必要とし、保育所しか選べない世帯は従来よりも入所しやすくなるでしょう。

既に幼稚園併設案は部会で検討されており、近い内に正式に公表されるのではないでしょうか。

しかし、極めて大きな欠点もあります。それは「私立幼稚園がなければ、そもそも併設もされない」という点です。西区東部地域の事です。この地域は全ての保育・教育施設が決定的に不足しています。施設の拡充・流入の抑制・野放しに放置、どうなるかは分かりません。

あくまで保育を行う場の本筋は保育所です。一義的には保育所の増設を行うべきでしょう。「安い保育の場」として小規模保育を新設して欲しくはありません。最近は施設を増やすことばかりが全面に出てしまい、中身の充実が後退してしまっている気がしてなりません。