先日、大阪市城東区にて出勤途中の女性がバッグを奪われる事件が発止しました。実はこの事件、保育所で働く保育士が抱えている問題が凝縮されています。

通勤途中の女性が2人組の男に蹴られバッグ奪われる 大阪・城東

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(7/1追記)
犯人が逮捕されました。

路上で保育士を足蹴りし現金強奪、容疑で男3人逮捕 大阪・城東

 路上で女性を足蹴りして現金を奪ったとして、大阪府警城東署は30日、強盗容疑で大阪市城東区今福西のアルバイト、亀山悠司容疑者(35)ら男3人を逮捕したと発表した。亀山容疑者は黙秘している。

 ほかに逮捕されたのは住居不定のアルバイト、蔵谷勇輝(27)と同府摂津市東別府の無職、吉井宗太(21)の両容疑者。2人は容疑を認めている。

 3人の逮捕容疑は3月22日午前5時40分ごろ、大阪市城東区今福東の路上で、歩いて出勤していた保育士の女性(42)の腰を蹴り、現金約1万9千円やカードが入ったトートバッグを奪ったとしている。

 大阪市によると、女性は市立保育所の保育士で、バッグの中には児童100人分の名前と生年月日が書かれた名簿が入っていたが、情報流出は確認されていないという。蔵谷容疑者らは「金とカード以外は川に捨てた」と供述している。

 同署によると、事件の約2時間後、同区内のコンビニで女性のクレジットカードが使われ、店内の防犯カメラなどから3人の関与が浮上したという。
http://www.sankei.com/west/news/160630/wst1606300071-n1.html

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事件の詳細が大阪市ウェブサイトに掲載されています。

平成28年3月22日(火曜日)、大阪市立保育所職員が通勤途上の大阪市城東区内の路上において、保育所入所児童の個人情報が含まれる書類及び保育所通用門の鍵等が入ったかばんの盗難にあう事件が発生しました。

本来、個人情報を自宅に持ち帰ることを固く禁じておりましたが、個人情報が漏えいする事案が発生したことにつきましては、関係者の皆様に多大なご迷惑をおかけし、市民の皆様の信頼を損ねることになり、深くお詫び申し上げます。

1 経緯と概要
平成28年3月22日(火曜日)午前5時40分頃、大阪市立保育所の職員が通勤途中、自宅から徒歩により最寄り駅へ向かっていたところ、正面から歩いてきた男性2人組にかばんを奪われました。その後、男性2人組を追いかけましたが、見失いました。
当該職員は直ちに警察署に盗難届を提出いたしましたが、現時点ではまだ見つかっておらず、捜索を続けているところです。

2 盗難により漏えいした情報等
入所児童100名分の保育所児童名簿(氏名・生年月日)
業務記録(児童名のイニシャル入り)
保育所通用口の鍵等

3 事故後の対応について
平成28年3月22日(火曜日)の降所時及び3月23日(水曜日)の登所時に入所児童の保護者に対して、個人情報の漏えい内容等を説明し、謝罪いたしました。また、当該保育所の盗難にあった鍵については、すでに取り換えております。

http://www.city.osaka.lg.jp/hodoshiryo/kodomo/0000348672.html

早朝出勤を強いられる保育士

強盗事件が発生したのは午前5時40分でした。夜明け前の薄暗い時間帯です。忙しい子育て世帯といえども、多くの方はまだ寝ている時間でしょう。被害者が自宅を出発したのは恐らく午前5時半頃です。

早朝からの出勤を求められているのは、保育所の開所時間が早いからです。大阪市立保育所は原則として午前7時半から開所しています。保育士の勤務時間も「7時30分から19時45分までローテーション勤務」とされています。

勤務日・勤務時間・休日・休憩時間・時間外勤務

(1) 勤務日
月曜日から土曜日まで(ただし、日曜日・祝日・年末年始及び土曜日に相当する指定休日を除く)
(2) 勤務時間
9時00分から17時30分までを基本とし、7時30分から19時45分までローテーション勤務にて従事していただきます。
(3) 休日
4週8休制を基本とし、日曜日・祝日・年末年始、及び土曜日に相当する指定休日
(4) 休憩時間
1日 45分間(ただし、勤務時間が8時間を超える場合 合計1時間)
(5) 時間外勤務
必要に応じて従事していただきます。

http://www.city.osaka.lg.jp/kodomo/page/0000346969.html

被害者は今福鶴見駅から乗車し、地下鉄等を乗り継いでやや離れた勤務先へ向かっていたのでしょう。狭い大阪市内といえども、勤務地によっては長時間通勤を要します。

7時半という時間からの開所は、利用者から一定のニーズがあるからでしょう。より早い午前7時から開所している私立保育園も少なくありません。早朝から夜まで保育を行っている保育所では、この様に職員に大きな負担が掛かっています。

また、朝早くや夜遅くまで保育所で生活している児童には、それ以上の負担が掛かっているのではないでしょうか。親が長時間に渡って働くほど、そのしわ寄せが弱者である子供に掛かっているのは事実でしょう。小学校へ進学したら、子供が早朝から過ごせる施設は殆どありません。

持ち帰り残業を強いられる保育士

強取された荷物には「入所児童100名分の保育所児童名簿」「業務記録」が含まれていました。大阪市は個人情報の自宅持ち帰りを固く禁じています。こうした書類を敢えて自宅へ持ち帰ったのはどうしてでしょうか。

推測される理由は単純です。「持ち帰り残業」です。この時期は年度切り替えに伴う事務作業が集中していると考えられます。仕事が勤務時間内で終わらず、仕方なく持ち帰って処理を行っていたと考えられます。

実は大阪市立保育所では人手不足が深刻です。正規採用の3年間凍結・周辺市より待遇に劣る非正規職員採用に人が集まらない等が主な理由です(詳細はこちら)。在籍している数少ない職員で仕事を回さざるを得ません。

であれば、被害者が勤務している保育所以外の市立保育所でも持ち帰り残業が常態化している恐れがあります。多くの私立保育園でも似た状況だと推測されます。児童が保育所にいる日中は園内で事務作業を行う時間が取れず、毎日の様に持ち帰っているという話も聞きました。

更に人手を掛けるか、それとも業務を効率化・縮小するか

どうすれば早朝出勤や持ち帰り残業が防げるのでしょうか。

無資格者を活用する等して早朝出勤する勤務シフトを緩和するという方法がある一方、思い切って早朝開所を止めてしまうのも一つの手段でしょう。子供の保育と保育士の日常生活の為には、開所時間の短縮も課題かもしれません。そうした措置を行う場合、保護者の時短勤務の活用・勤務先の理解が前提となります。

古い考えかもしれませんが、私には朝7時から夜7時まで保育所で子供が過ごす生活がイメージできません。こうしないと生活できない家庭があるのであれば、それこそ行政的な支援が必要です。

持ち帰り残業を防ぐ為には、業務の効率化が不可欠でしょう。必要性の乏しい業務・書類作成は取りやめる、IT機器を利用して業務効率を向上させるのが基本的な流れでしょうか。

あくまで外野から見ている限りですが、保育所での業務は事業会社と比較して極めて非効率的です。手書きの資料が極めて多く、あたかも昭和の時代で止まってしまっている様に感じました。余りに旧態依然としています。

保育士は保育の専門家である一方、組織運営・業務改善・人事労務・情報機器の活用等には決して長けていないでしょう。組織規模が小さく、専門知識を有する事務職員の雇用も限定的となってしまいます。何らかの改善が求められます。