厚生労働省が発表した「緊急対策」が物議を醸しています。原文にあたりながら、簡単に読み解いてみます。

Ⅰ 子ども・子育て支援新制度施行後の実態把握と緊急対策体制の強化

1.厚生労働大臣と市区町長との緊急対策会議等
○ 厚生労働大臣と待機児童が100人以上いる市区町(H27.4.1現在62市区町)の長との緊急対策会議及び待機児童対策緊急部局長会議を開催し、国・市区町村が一体となって待機児童解消に向けた積極的な取組を促進する。
2.自治体からの優良事例・課題・要望等の受付
○ 自治体における子ども・子育て支援新制度施行後の待機児童対策の現状等について、専用アドレスを設置し、優良事例・課題・国への要望等を随時受付する。
3.厚生労働省ホームページによる保育に関する国民からのご意見等の募集
○ 厚生労働省ホームページによる、保育に関する国民からのご意見を募集する。
○ 「保活」(子どもを保育園に入れるために保護者が行う活動)について、国民からのご意見もあわせて募集する。
4.「保活」の実態を調査
○ 「保活」についての具体的状況、保護者の負担等を把握し、より保護者目線に立った施策展開に資するため、平成28年4月入園に向けた「保活」の実態を調査する。
5.保育コンシェルジュの設置促進(Ⅳの1参照)

現状把握や意見募集手続についてです。「今更実態把握か」というのが本音です。でも、やらないよりはマシでしょう。厚生労働省ホームページからの意見募集も行っています。意見がある方はどんどん送って下さい。

Ⅱ 規制の弾力化・人材確保等(受入強化)

1.保育園等への臨時的な受入れ強化の推進
○ 人員配置や面積基準について、国の定める基準を上回る基準を設定している市区町村において、国の基準を上回る部分を活用して、一人でも多くの児童を受け入れるよう、市区町村に対して要請する。
2.自治体が独自に支援する保育サービスの支援
○ 自治体が単独事業として支援する認可外保育施設が、認可保育園等への移行計画を作成した場合に運営費を補助する。
その際、現行の認可化移行運営費支援事業の補助要件である認可化移行期限(5年間)を緩和し、自治体が単独事業として支援する認可外保育施設への支援(運営費の一部及び改修費の補助)を行う。この措置を通じ、結果として利用者の保育料軽減につなげる。
3.認可基準を満たす施設の積極的認可
○ 「客観的な認可基準を満たした場合には、認可権者である自治体は認可しなければならない」とされている新制度の基本的考え方を、待機児童のいる自治体に対して徹底する。特に、待機児童がいて、事業者の参入意欲があるにも関わらず、積極的に認可をしない自治体の運用については、是正を要請する。これにより、意欲のある事業者の積極的な参入を支援する。
<是正を要する事例>
・市区町村の整備計画を上回って保育ニーズが増大しているにも関わらず、既に定めた計画以上に認可をしない事例。
・認可の条件として法人の実績や職員の経験年数等を必要以上に求め、新規参入を事実上困難にしている事例。
・既存の保育園への強い配慮や将来の人口減を理由に認可に消極的な事例。
・保育園等を認可する審議会を4月開園に向けた年度単位のみの運用とし、年度途中の認可が行われない事例。
4.小規模保育園等の卒園児の円滑移行
○ 小規模保育園等の卒園児の3歳以降の入園が円滑にできるよう、連携施設の設定に市区町村が積極的に取り組むよう促す。
○ 市区町村が丁寧な利用調整を行うことにより、円滑な入園を推進する。
○ 例外として認められている3歳児以降の継続入園をしやすくすることも考慮し、19人以下で定員設定されている小規模保育事業について、定員弾力化により、19人を超えた受入れの拡大(22人まで)を推進する。
(人員基準や面積基準は満たすことが必要)
5.幼稚園の預かり保育への支援強化
○ 幼稚園における長時間の預かり保育事業についての支援強化を、内閣府、文部科学省とともに検討する。
6.定員超過入園の柔軟な実施
○ 2年連続して定員を120%超えて入園させた場合に3年目に公定価格が減額される取扱いについて、待機児童の現状に鑑み、その期限延長を行い、柔軟な実施を促す。

「国基準への緩和の促進」が主に報道されていますが、それ以外の施策も多く含まれています。保育所等の新設がスムーズに進む様に促すと共に、幼稚園・小規模保育・認可外保育施設等でより多くの児童が入所出来る様な策を促しています。

Ⅱ 規制の弾力化・人材確保等(人材確保)

7.土曜日共同保育の実施可能であることの明確化
○ 土曜日の保育の利用が少ない場合について、保育士の勤務環境改善等に資するため、近隣の保育園等が連携し、1か所の保育園等で共同保育することが、公定価格の減額なく可能であることを明確化する。
8.保育人材の資質向上・キャリアアップのため、以下の研修を推進
○ 保育士養成校の学生が現場実習する際の指導者の資質向上を目的とした研修
○ 新任保育士が円滑に職場に定着し、就業継続していくことを目的とした研修
○ 保護者支援、保護者対応等、保育士にとって負荷の大きい業務について主任保育士等を対象とした研修
○ 保育園等の管理者を対象としたマネジメント等の研修
9.保育士の業務負担軽減のためのICT化の推進
○ 保育士が本来の保育業務により多くの時間を割くことができるよう、保育士の業務負担軽減につながるICT化を推進する。
10 .保育補助者雇い上げ支援等の推進
○ 保育士の業務負担を軽減し、離職防止等に資するよう、保育補助者雇い上げ支援等の活用の推進など、平成27年度補正予算・平成28年度当初予算により事業化する。
11.短時間正社員制度の推進等
○ 子育て中の保育士等が復職しやすくなる環境を整えるため、多様な働き方を可能とする短時間正社員制度の活用を推進するなど、短時間勤務の保育士の処遇改善を進める。
○ 保育士が常勤であることを地方単独措置の条件とする等、短時間勤務の保育士の活用をしていない自治体について、短時間正社員制度の活用等、短時間勤務の保育士の活用を促す。
○ 妊娠・出産を契機に離職することが多い保育士の仕事と子育ての両立を支援するため、育児休業取得の推進を促す。
12.保育士の子どもの優先入園
○ 未就学児をもつ保育士の子どもの優先入園を推進する。
○ その際、市区町村の圏域を超えて就職する保育士がいることにも配慮し、都道府県が広域調整の役割を積極的に果たすよう促す。
13.保育園等における保育士配置の弾力化の円滑かつ着実な実施
○ 4月から実施予定の、保育士配置の弾力化の特例措置について、円滑かつ着実な実施について周知徹底を図る。

保育士等の確保についても対策を講じています。しかしながら、保育士不足の最も大きな原因である「低待遇」への対策が全く盛り込まれていません。仮に賃金引き上げ等を行う場合には多額の財源が必要となる以上に、幼稚園教諭・介護職員等の待遇にも影響するのを恐れているのではないでしょうか。

保育士の待遇引き上げは「パンドラの箱」だと感じています。単純に「保育園で働く職員の給与増」だけで済む筈がありません。保育士不足は待ったなしですが、長期的な議論が必要です。

研修・業務効率化・短時間正社員制度の促進は不可欠かつ一定の効果はあるでしょう。特に保育所の書類仕事の非効率性は保護者目線からも気になっていました。手書き書類があまりに多いです。ICT機器を積極的に活用して業務効率化を進め、保育士の負担を軽減すべきでしょう。事務専任職員の雇用も一手段です(更なる補助が必要となるでしょうが)。

Ⅲ 受け皿確保のための施設整備促進

1.施設整備費支援の拡充
① 資材費等の高騰などを踏まえた借地料への支援の強化
○ 資材費や労務費の高騰などを踏まえた、整備費の土地借料加算の引上げを行う。
○ 借地料は工事着工前から必要であるため、工事着工前の土地借料についても支援する。
○ 定期借地権契約により土地を確保することにより発生する、必要となる権利金や前払地代などの一時金に対する支援を実施するため、整備費に新たな土地借料加算を設定する。
② 小学校の空き教室等の活用
○ 学校、公営住宅、公民館、公有地等の地域の余裕スペースを活用した保育園等の整備を促進する。
○ 整備費に設けられた「地域の余裕スペース活用促進加算」の基準額を改善する。
③ 公園などの都市施設等を活用した保育園等の設置促進
○ 保育所等整備交付金の「地域の余裕スペース活用推進加算」の対象として促進する。
2.改修費支援等の拡充
① 地域のインフラ(空き家、空き教室など)を活用した一時預かりの推進など
○ 保育対策総合支援事業費補助金の1メニューである「保育環境改善等事業」を見直し、改修費支援を実施する。
② 改修費支援の拡充
○ 保育対策総合支援事業費補助金において実施している、小規模保育等の多様な保育サービスへの改修費支援について、補助単価を引き上げるとともに、定員を増加する場合や老朽化に伴う修繕等についても補助対象とする。

保育所に適した土地の不足等への対策です。特に都市部では借地料が高く、そもそも土地がないという状況もあります。「保育所よりも貸し駐車場の方が儲かる」という話もあるそうです。

Ⅳ 既存事業の拡充・強化

1.保育コンシェルジュの設置促進
○ 待機児童が50人以上いる市区町村を中心に「保育コンシェルジュ」の設置促進を図る。
○ 保育園等入園希望者への4月以降も継続した丁寧な相談を行い、小規模保育、一時預かり等多様なサービスにつなげるマッチングを実施する。
○ 申請前段階からの相談支援や、夜間・休日などの時間外相談を実施するなど、利用者の視点に立った機能強化を推進する。
○ 小規模保育園卒園時の保育園、幼稚園、認定こども園への円滑な入園のための利用調整を推進する。
2.緊急的な一時預かり事業等の活用
○ 待機児童を緊急的に預かるため、一時預かり事業(地域密着型、訪問型を含む)を活用・拡充して、保育園等への入園が
決まるまでの間、地域の余裕スペースなども活用しながら、定期利用による保育サービスを提供する。その際、保護者の利用料負担が過大にならないよう配慮する。
3.広域的保育所等利用事業の促進
○ 隣接する市区町村のどちらかに空いている保育園等がある場合、市区町村の圏域を越えて保育園等の利用調整が可能な場合、送迎バスを活用し市区町村の圏域を越えて保育園等の広域利用を支援する。
○ 自宅から遠距離にある保育園等への通所を可能とするための送迎の実施について、現行の保育園、認定こども園、小規模保育事業、家庭的保育事業、事業所内保育事業に加え、公費補助(国庫補助、地方単独補助)を受けている保育施設や保育の必要性の認定を受けた子どもを受け入れる幼稚園も対象施設として拡大する。
4.地域の中での円滑な整備促進
○ 保育園等の新規開設が地域の中で円滑に進むよう、平成27年度補正予算による防音壁設置対策を継続実施するほか、保育施設建設に対する地域住民等との円滑な合意形成を支援するため、環境整備(コーディネート等)を促進する。

既存事業の拡充等です。「無いよりはマシ」という程度でしょう。

各自治体で「保育コンシェルジュ」が設置されていますが、私はやや懐疑的です。保育所等を探している人が強く困っている点の一つが「情報不足」です。まずは行政が保有している保育所の空き情報や入所に必要な点数等を積極的に公開し、利用者の合理的な判断を促すべきでしょう。

Ⅵ その他の取組

Ⅴ 企業主導型保育事業の積極的展開(省略)

1.保育所入所不承諾通知書の名称・様式の改定
○ 通知書の名称や様式を改定する。また、通知書を送付する際には結果のみ告知するのではなく、様々な措置や支援について情報提供するとともに、利用者支援事業などを通じたきめ細かな支援に努めるよう促す。
2.育休からの円滑な保育園利用への移行、企業への働きかけ
○ 1歳児の待機児童が多いことに伴い、やむなく育休の早期切り上げによる0歳児入園を選択するといった状況を改めるため、保育園等整備を促進するとともに、柔軟な育休取得等出産して子育てと就労の両立がしやすい働き方を推進するとともに、保育園等に入園できなかったことにより働くことをあきらめることとならないよう、企業側への働きかけを行う。

1歳の待機児童が多いのは、(1)年度後半生まれは0歳児入所がほぼできない、(2)1歳児入所枠が少ないのが理由です。年度前半生まれと年度後半生まれには不合理で著しい格差があります。

「バースコントロール」という話もチラホラ聞きます。お世話になっている保育所での児童の誕生月を早生まれは損だ!?でまとめました。年度後半、特に1-3月生まれが極端に少ない結果でした。保育園への入園制度が児童の誕生月を歪めかねません。

「予算を必要としない対策」が目立つ

盛り込まれている内容の殆どは予算措置が必要でない内容です。「促す」「推進する」「検討する」「明確化する」「要請する」「徹底する」という言葉ばかりです。待機児童問題が盛り上がったのが予算成立直前というタイミングであり、予算を必要とする内容を盛り込みにくかったのでしょう。

金銭支出が伴っている数少ない項目の一つが「施設整備支援の拡充」です。保育所や保育士に充当されるのではなく、地主へ支払われる金銭です。保育所不足を解消する一手段となるでしょうが、地主の地代収入となるのは釈然としません。

だとしても、今後に向けて「保育士の待遇改善を図る」という一言すら盛り込まれていないのが残念でした。報道されているとおり、入所枠をギリギリまで拡大させて児童を詰め込み、数少ない保育士で保育を行うのが方針だと受け取られても仕方ありません。

今後は自治体毎の対応が待たれるか

仮に国の方針がこのままであれば、今後は基礎自治体の積極的な対策が待たれます。自治体独自での保育士配置基準の厳格化・保育料の軽減措置等は一定の自治体で既に行われています。保育所・保育士不足への対策を積極的に行う様に陳情等を行い、首長をやる気にさせるのが近道でしょう。

参考として、大阪府内の自治体ではたとえばこうした対策を行っています。
都市公園内への保育所設置(豊中市)
・以前から決まっていた市職員の給与削減分を保育施設の新設へ充当(池田市)
・保育士を目指す学生への支援金(箕面市)

特に待機児童問題が深刻な都内・首都圏の自治体は財政面で豊かな地域が多いでしょう。貧乏な大阪市としては羨ましい限りです。対策を行う財源は捻出しやすい筈です。国への対策を求めると同時に、地域の実情に応じた自治体独自の対策を求めるべきでしょう。