昨年は保育料の計算ミスが多発した1年でした。大阪市内では約500件のミスが発覚しました(詳細はこちら)。他の自治体でも多発しており、全国では万単位の誤請求が行われたと推測されます。

大阪市ではデータの入力誤り・入力漏れを入念に再確認したにも関わらず、平成27年度分の保育料に誤りがあった事が判明しました。驚くのはその金額です。本来は9ヶ月で約44万円であったところ、請求したのは約5万円のみでした。未徴収額は約39万円です。

平成28年5月13日 14時発表

淀川区役所保健福祉センターにおける保育所等にかかる利用者負担額(以下、「保育料」とする。)決定事務の際に入所情報を誤って登録したことから、保育料を過少に決定・徴収していたことが判明しました。
このような事案が発生したことにつきまして、深く反省するとともに関係者の皆様方に多大な御迷惑をおかけし、市民の皆様方の信頼を損なうこととなりましたことを深くお詫び申し上げ、再発防止に努めてまいります。

1 概要と事実経過
淀川区役所保健福祉センターにおいて、平成27年度保育料を決定するにあたり、保育所等入所希望者(保護者A氏)の情報を一部誤って大阪市総合福祉システムに登録したため、当該保育料の算定基礎となる市民税額を正しく反映することができず、平成27年4月から12月までの9か月間の保育料を誤って算定・決定していました。
当該事案については、平成28年1月時点にA氏に係る保育所等入所者情報変更手続きを行う際に発覚したにもかかわらず、A氏への経過説明及び未徴収額の納付相談を十分に行っておらず、5月6日(金曜日)にA氏から事情説明するよう問い合わせを受けるに至りました。

本件に伴うA氏への影響は次のとおりです。
・保育料未徴収額(総額)387,100円 … (A)-(B)
・保育料(正) 437,500円 … (A)
・保育料(誤) 50,400円 … (B)

2 保護者A氏への対応
5月6日(金曜日)にA氏と直接お会いし、お詫びとご説明をさせていただきました。なお、保育料未徴収額分については今後、納付方法等についてご相談させていただきます。

3 再発防止について
今回の保育料決定における事務処理誤りについては、保育所等入所希望者の情報を誤って大阪市総合福祉システムに登録したことなど、一連の保育料決定事務において確認が不十分な点にあったことにより発生したものと認識しています。
また、当該事務処理誤りが発覚したにもかかわらず、保護者への適切な経過説明を行わず、保育料の未徴収状況を継続させたことについては、組織における連携体制及び情報共有が不十分であったことにより発生したものと認識しております。
今後は、同様のことが起こらないよう、今回の事務作業の検証を行い、問題点を整理するとともに、複数人によるチェック体制や事務処理誤り事例の情報共有を徹底するなど、再発防止に努めてまいります。

http://www.city.osaka.lg.jp/hodoshiryo/yodogawa/0000359328.html

計算ミスは平成28年1月に発覚していました。しかし、保護者への説明や未徴収額の扱いに関する説明が十分に行われていなかったのでしょう。平成28年4月分の保育料が引き落とされた5月6日に保護者から再説明を求められ、ようやく正確な説明・情報公開に至ったのだと推測されます。

本来は月平均で5万円弱の保育料、請求したのは6,000円弱か

本来の保育料は9ヶ月で437,500円でした。途中で保育料の変更が行われていますが、月平均で48,611円となります。3歳児以上の保育料額表には見当たらない金額なので、園児は0-2歳でしょう。

しかし、保護者へ請求したのは9ヶ月で50,400円でした。1ヶ月あたり5,600円となります。市民税所得割非課税世帯の保育料より低い金額でした。

計算ミスの背景にはシステムに問題が?

事実経過に気になる記載があります。下記部分です。

平成27年度保育料を決定するにあたり、保育所等入所希望者(保護者A氏)の情報を一部誤って大阪市総合福祉システムに登録したため

誤って登録したのは市民税額でしょう。市民税額は税務関係のシステムに登録されている筈です。税務システムから数字を直接参照するのではなく、人間の作業を介して数字を入力している可能性が考えられます。

仮に税務システムから福祉システムへ人間が転記しているのであれば、ミスが生じるのは当然です。EXCEL等でセルを参照するのではなく、人間が数字を再入力しているのと同じです。

大阪市の総合福祉システムはNTTデータ関西が構築・運用・保守等を行っています(詳細はこちら)。同社のウェブサイトでは「総合福祉システム」が紹介されています。

福祉サービスに関する住民の大切な個人情報を一元管理化。
他部署管轄の情報ともリンクする統合システム。

総合福祉システムは、住民の福祉サービスに対する多様化するニーズにより、増大する事務処理を効率化し、住民の方々の状況に応じるために発生する複雑な業務を軽減するための統合システムです。
生活保護、福祉五法(児童福祉法、母子及び寡婦福祉法、老人福祉法、身体障がい者福祉法、知的障がい者福祉法)、さらに平成18年に施行された障がい者自立支援法の事務を総合的にシステム化しました。これにより受給状況把握、資格管理、徴収管理などの業務をスムーズに行うことができるようになります。

http://www.nttdata-kansai.co.jp/jumin-joho/sogo-fukushi.aspx

社会保障関係は扱う数字が膨大で、かつイレギュラーな処理も多々行われているでしょう。人間はミスをする生き物という前提の下、ヒューマンエラーを防ぐ仕組みが十分ではないと考えられます。当然ながら、担当者や部門のITスキルにも問題があるでしょう。

保護者は気づかなかったのか?

本来請求すべき金額と請求した金額に10倍近い開きがありました。途中で保護者が「安すぎる」と気づいた可能性はなかったのでしょうか。区役所の説明によると、区役所の手続変更時に発覚したとされています。

月平均で5万円の保育料となるのは、市民税額が20万円を超える世帯です。一定以上の年収がある方です。途中で何となく「おかしい」と気になっていた可能性はあるでしょう。しかし、初めての保育所利用で保育料の相場感覚を知らなかった、引き落とされる金額を確認していなかった等の理由で全く気づかなかった可能性もあります。

どちらにしろ、区役所側のミスが問題の発端です。

未徴収分は納付しないとならないのか?

気になるのは未徴収分の納付です。「計算ミスは区役所の責任、だから請求しません」となるのでしょうか。

法令によると、保育料は公法上の債権として5年間の消滅時効に掛かると考えられます(地方自治法236条1項)。請求権は未だ残存しています。通常通りに請求が行われるでしょう。

ただ、唐突に「39万円を払って下さい」と言われたら、誰だって怒ります。私だったら「ふざけるな」と怒って追い返します。中には払えない方もいるでしょう。

納付方法については今後保護者と相談するとされています。区役所の対応に不信感を強めていれば「今更言われても払わない」という判断も十分に考えられます。しかし、こうした対応を続けていると、最終的に滞納処分による差押えが行われる可能性もあります。

保育料の支払手続(期限後納付と恐ろしい督促・滞納処分)

区役所の過失と金額の大きさから、簡単に決着しないかもしれません。

保育料は自分で点検を!

導き出されるのは、「保育料が正しいか、自分で点検しなければならない」という教訓です。区役所の計算は当てになりません。昨年は約500件のミスが生じていました。保育所等へ登園している児童100人に対して1件の割合です。

民間企業に例えてみましょう。「請求書100件に対して1件の割合で請求ミスが生じている」という状態です。こんな事をしていたら経理部門の責任者は左遷を免れません。ミスは避けられないといえども、あまりに多すぎます。

保育料以外にも租税・社会保障分野等での計算ミスも多発しています。住民ができるのは自己防衛です。送られてきた請求書等の金額に疑問を抱いたら、まずは担当窓口に相談するのが良いでしょう。納得できなければ自分で再計算し、具体的な説明を求めるべきでしょう。

同様のミスは平成28年度分の保育料計算でも生じると考えられます。あなたの保育料、おかしいところはありませんか?