大阪府と大阪市が待機児童解消の為、国に対して保育所設置要件を緩和する特区構想を提案しています。これに対し、大阪府内の保育施設で子どもを亡くした遺族が、構想を取り下げるように要望しました。

待機児童解消のため保育施設の規制緩和を国に提案している大阪市に対し、保育事故などで子どもを亡くした遺族らが、提案を取り下げるよう要望しました。

「保育事故の一当事者として、規制緩和ではない方法で待機児童の問題を解消していただきたい」

24日大阪市役所を訪れたのは、認可外保育施設の事故などで子供を亡くした遺族らです。

大阪府と大阪市は、待機児童の解消のため、特区を活用し保育士の資格を持たない人でも一定の研修を受ければ、保育施設に配置できるようにすることなどを国に提案しています。

これに対し、遺族らは、「資格を持たない人が配置されれば、安全な保育ができなくなる」などとして市に国への提案を取り下げるよう要望しました。

「良い環境を作らなければいけないのに(規制緩和は)悪くしようとしか思えないので」

大阪市の吉村市長は、「規制の緩和が保育施設の質を下げることにはならない」とコメントしてます。

http://www.ktv.jp/news/sphone/20160524_sp.html (動画あり)

他社でも報じられています。
【大阪】母親らが待機児童特区の取り下げ要望(ABC)
大阪の保育 規制緩和策の取り下げを要望(読売テレビ)

提案内容は主に保育士配置基準の緩和(一部を子育て支援員等で代替)・准保育士制度の創設です(詳しくはこちら)。保育士以外の多様な人員を保育現場で活用する事によって保育士不足を解消し、待機児童問題の解消を図る内容です。

一方、保育士以外の人材を活用した場合、いわゆる「保育の質」は保たれるのでしょうか。例えば参議院の調査担当者は論文で下記の指摘を行っています。

・諸外国の研究結果によると、子どもと保育者の人数比率やグループ規模、保育者の専門性は、子どもの健やかな発達と密接に関わっており、保育の質を構成する重要な要素と言える。
・我が国の保育者の専門性については、保育に従事する者は保育士資格を必要とされていることが質を確保する上で重要な役割を果たしている。
・現在問題となっている保育士不足への対応としては、保育の質の維持・向上という観点からすると、保育士以外でも保育者として働けるようにするという規制緩和よりも、労働条件や待遇の改善により人材の流出を防いで人材を確保する必要がある
・子どもの健やかな育ちに必要な保育の質の水準とは何かを明確にするためには、保育の質についての長期にわたる体系だった研究が重要である。
・国によって文化的・社会的背景が異なるため、保育において重んじられている事柄や保育時間等、様々な違いがあり、我が国においても実証的な調査・研究が必要であろう。

保育の質から見た保育所の現状と課題(立法と調査2013年10月) より引用

保育者(保育士)の人数比率・専門性が重要な要素であり、質の確保に際して保育士資格が重要な役割を果たしていると指摘しています。大阪府・大阪市による規制緩和はこれに逆行しており、少なくとも「保育の質」を向上させる効果は考えにくいです。

一方、質の低下を最小限に留める措置も検討されています。有資格者との組み合わせ等の措置です。しかし、質の低下は否めません。

保育士不足の主たる原因は待遇の低さ・労働環境の悪さ・家庭との両立が困難という点です。これらを解決せずに規制緩和を行うのは筋違いであり、保育士の更なる保育所離れを促進しかねません。待機児童問題の解消を図る手段として、決して適当な方法ではないでしょう。