今回は保育所関係から少し離れ、とある書籍から気になった内容をご紹介します。「経済学者 日本の最貧困地域に挑む あいりん改革3年8カ月の全記録」です。

著者は学習院大学教授の鈴木亘氏です。大阪大学大学院経済学研究科を経て、日本銀行京都支店に勤務していた当時にあいりん地区との関わりを持ったそうです。その後、縁あって「西成特区構想」を担当する大阪市特別顧問に就任しました。

鈴木先生や大阪市役所等が掲げる「西成特区構想」の是非については触れません。ただ、ここ数年であいりん地区が歩きやすくなった実感はあります。ホームレスや投棄ゴミが目に見えて減っています。

本書を紹介したかった理由は、大阪市役所等による従来型の施策の考え方・進め方とそれに奮戦する様子が事細かく記載されているからです。

この中で地域住民等に特に強く関係するのは、いわゆる「いきなり調整方式」という進め方です。

とりわけ、あいりん地域では、ステークホルダー(利害関係者)が多くて合意形成、利害調整が大変困難であることから、地域の人々をまったく無視した行政手法が長年、横行してきた。

すなわち、(1)地域の人々に事前に一切の相談をせず、行政内部で秘密裏に事業を立案し、(2)具体的な事業計画を詰め終え、予算も決まってから、ぎりぎりのタイミングではじめて地域に説明する(いきなり調整方式)。

(3)地域は当然、「開けてびっくり玉手箱」で、怒り心頭の大騒ぎとなるが、行政は平身低頭で嵐の過ぎ去るのを待つ。(4)結局、時間切れで事業が決定し、地域の以降を無視した施策を無理矢理強行する。

しかし、こういう行政手法を繰り返すと、(5)地域の人々の行政不信をますますヒートアップさせ、次の事業実施を難しくする、(6)こうした失策が積もり積もって、地域の人々が行政事態にアレルギー反応を起こし、もはや地元の反発で何も出来ない状態に陥る。(7)このため、いくら問題が生じていても、行政は問題先送りや放置を行わざるをえなくなり、ますます地域の人々の行政不信をエスカレートさせる。

物事が決まってからようやく地域へ説明され、猛反発されながらも「決まった事」として強行する手法です。これが繰り返されると行政不信が高まり、新たな施策を講ずるのが非常に難しくなってしまいます。

同書には具体例も記されています。あいりん地区内のホームレス向けシェルターの建替話です。

いつものように、事業計画を立て、予算案をつくって、市議会を通してから、ギリギリのタイミングで初めて地元町内会に説明しようとしていた。またしても、大阪市役所お得意の「開けてびっくり玉手箱」の「いきなり調整方式」である。
(中略)
町内会長達が急にザワザワ「わしら、何も聞いてへんで」と騒然となったのである。
(中略)
有識者座談会で議論してから既に5カ月、報告書が出てから3カ月以上経っているのに、福祉局は一言も町内会に説明していなかったのである。
(中略)
じつは9年前にシェルターをはじめて建設する際にも、福祉局には、今回とまったく同じ目に遭わされたという。
(中略)
それでもなお紛糾を続ける地元町内会に対して、その担当者は居直り「もう市議会も通ってしまったから、いまさら反対してもあとの祭りだ。何を言われてもわれわれはシェルターを作る」と一方的に言い放ち、有無を言わさずシェルター建設を強行したそうだ。
(中略)
大阪市役所の役人達の闇は思ったよりも深く、これから先、まだまだ何が出てくるか知れたものではない。

何も知らされていない間に話が動き出して決まっていたら、関係住民等はひたすら反発するしかないでしょう。しかし、そのまま市役所に強行されてしまうケースが専らではないでしょうか。

「いきなり調整方式」は未だ健在

こうした「いきなり調整方式」を窺わせる進め方は、依然として根強く残っていると感じます。予算案等の可決後という段階では聞きませんが、担当部局内部で原案が決まり、市長等の了承が得られた段階で初めて公となるケースです。

典型例は大阪市北区のマンション内に設置を予定していた児童相談所です。

【10/7追記・ニュース】大阪市北区のマンション低層部分(市所有)に児童相談所?
【大阪市会】保育士優先枠・児童相談所について質疑が行われました

市会での質疑によると、一昨年の秋から地元町会・マンション住民等へ説明を行っていたそうです。しかし、児童相談所の実態が明らかになるにつれて反対意見が増え、設置ありきの計画に対して猛反発を受けました。結果、マンション住民の半数以上から反対署名が寄せられ、計画断念に追い込まれました。

仮に猛反発だけであったら、大阪市は設置を強行したでしょう。吉村市長もたびたびそうした意向を示してきました。

断念せざるを得なかったのはマンション管理規約の存在です。他の区分所有者の専有部分に影響する大規模改装に際しては、事前に住宅部会長の了承(住民多数の賛成)が必要だそうです。

一方、現在進行形で話が進んでいるのは、西船場小学校増築に伴う西船場幼稚園の廃園問題です。

大阪市立西船場幼稚園(西区)の廃園が検討中・・・小学校増築の為

昨年5月以降、月1回程度のペースで市役所・区役所と地元町内会等との話し合いが行われていたそうです。しかし、肝心の在籍園児や入園を検討している子育て世帯に話が伝わっていなかった様子です。驚いた保護者等が西船場幼稚園を守る会西船場小学校・幼稚園を考える会を立ち上げました。

町内会の構成メンバーは、昔からその地域に住んでいる高齢男性が中心です。忙しい子育て世帯や育児を重荷になっている母親の関与は薄く、重要な話もなかなか伝わってこないでしょう。また、西区等で急増しているマンション住民は町内会等へ入っていない世帯も少なくありません。

行政としては原案検討と同時並行という形で町内会へ説明し、これで十分だと考えていたのではないでしょうか。しかし、幼稚園を必要とするのは若い子育て世帯です。最大の利害関係者を半ば無視・軽視していた形です。

話が広まったのは、幼稚園の廃園計画が内部で固まったと思われる時期です(昨年9-10月頃)。検討している話すら伝えられず、「廃園とする」という結果だけを伝えられたら、子育て世帯が怒るのも当然です。これこそが大阪市役所お得意の「いきなり調整方式」でしょう。話が伝えられるのが遅すぎます。

いきなり調整方式は禍根を残します。廃園案は話が拗れ、市役所が予定していた12月市会での決定は見送られました。

地元住民や市会議員等からの強い要求があったのでしょう。1月27日(金)・1月28日(土)に改めて説明会が行われます。

市立西船場小学校の教育環境改善計画案説明会の開催について

大阪市西区役所、大阪市教育委員会事務局及び大阪市こども青少年局は、「西船場小学校の教育環境改善に向けた実施計画案」について、区民説明会を開催します。
西船場小学校では、児童数の増加が続いており、今後教室数不足となるため校舎を増築する必要がありますが、このまま運動場に増築いたしますと狭隘化が顕著となることから、教育環境の改善が必要となります。
このため、様々な改善案のなかから併設の西船場幼稚園を靱幼稚園に機能移管し、西船場小学校の用地を拡張する案を行政として実現可能な改善計画案として、昨年11月末に大阪市会に上程し、現時点では審議中となっております。
この度の説明会は、この改善計画案について広く区民の方にご理解いただく機会として開催させていただき、ご質問、ご意見等を承ってまいります。(以下省略)

http://www.city.osaka.lg.jp/nishi/page/0000384939.html

昨年秋に幼稚園で行われた説明会は在籍園児の保護者しか参加が許されず、強い非難の声が上がったと聞きました。今回の説明会では廃園案等の関する質問に先立ち、行政による話の進め方に対する強い批判が上がるでしょう。

調整方式の他、同書には大阪市役所内部の力関係・役人の考え方・部局間調整の難しさ・大阪府警との関係等、役所外の人間にとっては窺い知る事が出来ない複雑な内容が記されています。

何らかの分野で市役所・区役所等に対して主張したい・実現したいと考えている方にとって、本書は大いに参考になるでしょう。是非、ご覧下さい。

大阪市立図書館にも多数の所蔵があります。が、蔵書検索によると大半が貸し出し中・予約中です。

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多くの大阪市民が同書に興味を持っている証拠でしょう。大阪市以外にお住まいの方にも興味深く読んで頂けると思います。