他紙と比べて待機児童・保育所に関する記事が少ない読売新聞が、「夜間保育園」に関する連載記事を掲載しています。ルポこどもの居場所@夜の保育園です

舞台は大阪市東淀川区にある豊新聖愛園(幼保連携型認定こども園)です。同園は長時間・深夜保育を必要とする保護者を対象としています。日中の保育に加え、朝夜の延長保育・宿泊保育も行っています。

残業・出張がちな家庭、飲食店経営者の利用が多い

第1回の記事「40時間ぶりパパと会う」では、同園の夜間保育を利用している理由やその背景を詳しく取り上げています。

 両親は、同じウォーターサーバー販売会社でともに管理職として働いている。母の祥栄さん(38)は、賢治さんより上役の幹部だ。前夜は、夫婦で東京本社の会議に出席し、帰れなかった。

祥栄さんは悠理君を出産後、昼間だけの保育所に午後6時半まで預けて職場復帰。時短勤務ながらトップの営業成績が認められ、昇進した。

柊仁ちゃんを産んでから豊新聖愛園を知り、6か月ほどで兄弟を預け、フルタイム勤務に戻った。月2回の東京出張、昼夜の部下への指導。保育士に「お仕事、頑張ってください」と送り出されると、心と体がふっといやされる。

http://www.yomiuri.co.jp/osaka/feature/CO029792/20170618-OYTAT50017.html

親はどんな職業なのだろう。夜働くホステスや看護師をイメージしていたが、実際は、「飲食店経営の夫婦」が9組18人で最多。会社員や塾講師、美容師などさまざまだという。「女性活躍」が唱えられ、祥栄さんのように働く母親も珍しくない時代。ニーズは思った以上に幅広いようだ。

システムエンジニアの夫(38)は深夜まで働くが、年収は約300万円。智恵さんは出産直後、元同僚から営業アシスタントの正社員に誘われ飛びついた。

あわてて保育所を探したが、大半が延長しても午後7時前後まで。「そんな時間に迎えに行ける会社がどれだけあるのか」。途方に暮れた時、この園をたまたま見つけたという。

同園の利用者は、出張や残業が多い仕事に夫婦で従事している・飲食店を経営している家庭が中心だそうです。

記事で触れている「夜遅くまで働くホステス」は、キタやミナミに近い認可外保育施設(24時間型)を利用している方が多いのではないでしょうか。東淀川区は少し遠く、飲酒後の深夜に迎えに来るのは難しいでしょう。

また、看護師は夜勤がない職場へ移る方が多いと聞きます。看護師はどの医療機関でも不足気味なので、転職するのが容易なのでしょう。日中のみの仕事でも待遇は良いです。

大阪市外からも利用可能

第2回の記事「近所に認可園あれば・・・」では、大阪市外からのニーズ・認可外保育との比較を突っ込んで掲載しています。

 夫婦は大阪府茨木市で牛タンの居酒屋を経営。午前0時の閉店後、片づけをしてから車で30分ほどかけて迎えに来る。「認可の夜間保育所があって助かる。安心して預けられるので」と口をそろえ、かつて認可外の園を利用した経験を話してくれた。

念願だった店を構えたのは4年前。アルバイトを多く雇うほどの余裕はなく、1歳だった長女の瑠夏ちゃんを当初、認可外の夜間保育園に預けた。

1か月後の深夜。園の呼び鈴を押しても反応がなく、窓からのぞくと保育士が寝入っていた。両親の呼びかけに気づいて泣き出した瑠夏ちゃんに「うるさいっ」とどなりつける始末。その前には園で何針も縫うケガをしていたこともあって、すぐ辞めた。

別の園を探したが、「安全そう」と思ったところは月10万円と高額。仕方なく島根県の実家に預け、2週間に1度、車で4、5時間かけて会いに通った。

3か月後、インターネットでたまたま豊新聖愛園を見つけた。「認可の夜間保育所があったなんて」。茨木市に相談すると、大阪市に委託してもらう形で入ることができた。

http://www.yomiuri.co.jp/osaka/feature/CO029792/20170619-OYTAT50006.html

豊新聖愛園を見つけて入所するまで、保育内容に問題がある認可外保育施設・遠い実家に子供をお願いしたりと、大変な毎日を送っていたそうです。

第1回の記事によると、認可の夜間保育所は全国で81園しかないそうです。全国夜間保育園連盟には、全国で61園が加盟しています。

大阪市子育て支援施設データベースで「夜間」と検索すると、5保育所が表示されました。キタやミナミに近い地域には、認可の夜間保育所がありません。ニーズが強い地域に無いのは残念です。

大阪市の保育所等入所制度は、あくまで大阪市民の利用が優先されます。しかし、大阪市民からの入所申込を受け付けても空きがある場合には、市外からの利用も受け付けています。

大阪市内の保育所等へは入所しにくいと言われますが、市外に近い地域はやや異なっています。特に市内から利用しにくい場所にある保育所等は園児が集まりにくいのが実情です。

また、豊新聖愛園の様な特別なニーズに応じた保育施設の場合、市内からのニーズを上回る定員を設定している施設もあります。

認可外夜間保育へのニーズも強い

日中の認可外保育では保育時間が短いので断り、24時間型の認可外保育施設を利用している方もいます。

認可外の園を利用する親は、どう考えているのだろう。大阪・十三の雑居ビル2階で24時間運営する「ひまわり園」を訪ねた。ここには6か月~10歳の20人前後が通っている。

兵庫県尼崎市に住む鉄工会社勤務の都留良太さん(39)、十三のお好み焼き店パートの絵美さん(25)夫婦は5歳、4歳、2歳の3人の子を預けている。

8次希望でようやく決まった園は自宅から5キロも離れていた。迎えの時間も厳密に守らなければならない。「午後6時に仕事を切り上げて慌てて迎えに行き、それから3人の子を連れて買い物すると想像したら、うんざり」と、結局辞退したという。

お好み焼き店でパートタイムとして働きながら、認可外保育施設を利用しながら3人の子供を育てるのはさぞ大変でしょう。目の回る様な忙しさで、自分の時間は殆どないと思います。

認可保育所へ申し込んだところ、自宅から5キロも離れた保育所へ決まったそうです。大阪市役所から西成区役所までの距離に相当します。自動車を利用しても厳しい距離です。

夫婦が利用している「ひまわり園」は、今年3月に関テレ「ワンダー」にて取り上げられました。

夜働く母の味方・・・24時間保育所に密着
https://www.ktv.jp/wonder/18pm/2017_03_15.html

同番組によると、ひまわり園の利用者は小売店経営・看護師・ピアニスト・ホステスと多彩です。

同園は阪急十三駅からすぐの場所にあります。タクシーで十三バイパスを経由すれば、北新地から10分も掛からないでしょう。

同駅周辺には、他にも多くの24時間型も認可外保育施設があります。こうした場所に認可の夜間保育所があれば、多くの方が助かりそうです。

昨秋には「福岡・中洲 真夜中の保育園(NHK)」が放送

子育てしながら夜や深夜に働く家庭にとって、夜間保育園は無くてはならないものです。昨秋には「ドキュメント72時間」にて「福岡・中洲 真夜中の保育園」が放送されました。

全国有数の歓楽街、福岡・中洲。2600軒の店が立ち並ぶ街の片隅に、朝7時から深夜2時まで開いている保育園がある。昼間は近くのオフィス街で働く親たちが子供を預け、夜になると中洲で働く男女がひっきりなしに訪れる。深夜のお迎えラッシュは、午前0時。着物姿で迎えに来る割烹(かっぽう)の女将(おかみ)や、子供のため懸命に働くシングルの親たち。小さな保育園に支えられながら生きる、親と子供たちの物語。
http://www.nhk.or.jp/docudocu/program/210/1199157/index.html

第2どろんこ夜間保育園は福岡の歓楽街・中洲に近接した場所にあります。大阪に例えると、お初天神や大阪駅前ビルに相当する場所です。

同園の内容や歴史は歓楽街・中洲に寄り添う「真夜中の日だまり」 親を支える夜間保育園にて詳しく記載されています(必読です)。

43年前に長屋を借りて運営し、紡績工場跡地の一角を福岡市から無償で借りて認可保育所へ移行したそうです。その為、跡地の大半を利用して建設された「キャナルシティ」に食い込む形となっています。

今秋には映画「夜間もやってる保育園」が上映予定

今年9月からは、映画「夜間もやってる保育園」が上映される予定です。

夜間もやってる保育園
保育が変われば社会が変わる。
子どもたちの幸せを考えてつくられた場所、療育教室や有機食材をつかった食育まで、知られざる保育園の挑戦です。
http://yakanhoiku-movie.com/

様々な保育園が出演・制作協力を行っています。特定の保育園を取り上げた物ではなく、夜間保育を幅広く取り上げた映画ではないでしょうか(違っていたらごめんなさい)。

東風配給なので、大阪では第七藝術劇場(十三駅すぐ)で上映されるのではないでしょうか。

夜間保育の社会的ニーズ・子供の幸せ

夜間保育のニーズがある一方、こうした保育施設の利用が果たして子供や家庭の幸せに繋がっているかは疑問です。私の思い込みかもしれませんが、少なくとも夜間は親子で一緒に過ごし、ゆっくり寝られる環境が必要だと考えています。

しかし、各家庭が置かれた状況は多種多様です。様々な事情により、夜間・深夜にも労働せざるを得ない方は少なくありません。

こうした働き方を選んでも、安心して利用できる保育制度を構築するのが一つの考え方でしょう。反対に子育て世帯(特に母親)の夜間・深夜労働に規制を設け、生活が厳しい世帯に経済的支援を行う考え方もあります。

どちらが正解と割り切れるものではありません。子育て世帯の環境や雇用者サイドのニーズがあまりに広くなってしまっています。「子供の幸せ・福祉」という観点から、幅広い選択肢と支援メニューを提示するのが最大公約数的ではないでしょうか。

大阪市は待機児童対策の為に保育所等の新設を積極的に行っています繁華街やその周辺地域にて「夜間保育所の開設事業者」を募集するのも一つの方法です。

中には「夜間保育なんて子供に良くない。必要ない。」と主張する方もいます。しかし、そうした方は夜間・深夜に営業している飲食店を利用した事はないのでしょうか。店で働いている方の中には、子育て中の方も少なくないでしょう。

行きつけにしているお店の中に、高齢の夫婦が切り盛りしている飲食店があります。女将さんが「子供が小さかった数十年前は、日中は保育園・夜間は託児所を掛け持ちしていた。大変だった。」と話していました。

子育て世帯の夜間・深夜労働を推奨する気持ちは全くありません。しかし、無くすのは現実的ではありません。現状を踏まえた上で、様々な家庭が安心して子育てできる環境作りが重要でしょう。