守口市が思い切った方針を打ち出しました。来年4月から0-5歳児の保育料を所得制限を設けずに無償化する意向を明らかにしました。

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(12/21追記)
守口市議会で条例案が可決されました。

大阪の守口市議会は21日、府内で初めて0歳児から5歳児までの保育料・幼児教育料を無償とする条例案を可決した。守口市議会ではこの日午前、0歳児から5歳児までの保育・幼児教育料を来年度から無償とする条例案が賛成多数で可決された。市内に住む約4000人の子どもが対象で、他の自治体の保育所などに通っていてもよく、約6億3000万円の財源は公立保育所の民間への移管などで確保するという。(以下省略)
http://www.rnb.co.jp/nnn/news88917667.html

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守口市が0-5歳保育料無償化へ、所得制限設けず
2016年10月05日

大阪府守口市は4日、0~5歳の就学前児童の保育料を来年4月から所得制限を設けずに無償化する方針を明らかにした。国は3~5歳の無償化を議論しているが、同市では対象年齢を広げて子育て世代への支援をより手厚くすることで、定住促進につなげたい考え。

この日の市議会一般質問で、西端勝樹市長が明らかにした。

市によると、市内の0~5歳児は6124人(今年4月現在)。無償化で年約6億5000万円が必要となる見込みだが、市立保育所5園を2年後までに民間移管して支出を削減、年約8億円の財源を確保する。無認可保育所は対象外。

市の人口は約14万4000人。10年前と比べると高齢化率は27・4%(2014年10月時点)と10ポイント近く上昇した一方、1日あたりの出生数は3・3人から2・9人に下がり、少子高齢化が進んでいる。

西端市長は取材に対し、「積極的に子育て世代を呼び込みたい」と話した。

0~5歳児の保育料無償化は静岡県西伊豆町などで取り組まれているが、市レベルでは珍しいという。

http://www.yomiuri.co.jp/osaka/news/20161005-OYO1T50009.html

毎日新聞によると、無償化の対象は「0〜5歳児の保育・幼児教育料」とされています。大阪市の様に「教育費相当額のみ」という縛りを設けず、「保育料が完全に無償化される(用具費等、実費負担部分を除く)」と受け取れます。

無償化財源は公立保育所・幼稚園の民営化・統廃合等によって捻出する方針です。具体的には16箇所の公立幼稚園・保育所を、平成30年度に3箇所の公立こども園・5箇所の私立こども園へ移行する計画です。

公立園の民営化・統廃合・こども園の是非についてはさておき、今回は保育料の完全無償化に伴う問題点を検討します。

守口市の現行保育料

守口市の保育料は下記の表の通りとなっています。大阪市と比べ、全体的にやや低い印象を受けました(大阪市が高すぎる?)。

Download (PDF, 227KB)

守口市はこれらを完全に無償化する方針です。太っ腹です。

入所保留率は約2割か

最も気になるのは、「希望しても保育料無償化の対象とならない、入所保留児童の存在」です。読売新聞の記事にある通り、認可外保育施設へ通っている児童は対象外とされてます。

では、守口市では毎年何人の児童が保育所等への入所を希望し、何人が入所/保留となっているのでしょうか。その物を示す明確な資料がないので、守口市の市立幼稚園・保育所に係る基本計画から及び大阪府内の保育所等待機児童数等の状況から推測します。

・平成28年度の5歳児人口は1013人
・4-5歳児の98%が幼稚園・保育所・認可外施設等へ通っている
・3歳以上の子供のうち、約47%が幼稚園、約46%が保育所を利用している

・平成28年4月1日の入所保留児童は110人

保育所に通っている児童は988人x0.46=466人と推定されます。同人数が毎年卒園し、代わりに新しい児童が入園します。それに対し、入所保留児童は110人です。

つまり平成28年度一斉入所で576人が申込、466人が入所内定、110人が保留となったと推計できます。つまり、申込児童の内、約2割が入所保留になっているとうかがえます。実際の数字とはやや異なるでしょうが、大まかな傾向はこの通りでしょう。

入所できなかった児童の不公平感

運良く入所できた児童は保育料が無償化される一方、入所できなかった児童は認可外保育施設の保育料を払わなければなりません。年間数十万円の大きな違いが生じるでしょう。運の良し悪しでは済まない金額差です。

保育料無償化の対象が4-5歳児のみであれば、こうした懸念は生じないでしょう。上記の通り、4-5歳児の殆どは幼稚園・保育所等へ登園しています。待機児童・入所保留児童は極めて少ないでしょう。ほぼ全ての児童が無償化の対象となります。

こうした懸念の為か、大阪市はまずは「5歳児の教育費無償化」から始めています。幼稚園保育料は全額、保育所保育料は教育部分(全体の約半額)が無償となっています。

守口市の年齢別待機児童の内訳等は不明です。しかし、近隣自治体等の状況から推測するに、多くは0-2歳児で生じているでしょう。入れなかった児童・保護者としたら、入所できない&無償化の対象とならないの二重苦です。

応能負担の後退

保育料無償化にはもう一つの問題があります。それは「格差の助長」です。

保育所等の保育料(私立幼稚園の就園奨励金を含む)は、世帯の収入(正確には市民税額)によって決められています。高収入世帯は負担が重く、低収入世帯は負担が軽くなっています。守口市では生活保護世帯等が0円、高収入世帯では最高で月64,000円の保育料が定められています。

保育料を完全に無償化した場合、保育料は生活保護世帯も高収入世帯も「0円」となります。生活保護世帯は何も変化がない一方、高収入世帯は大きな経済的恩恵が生じます。

つまり、保育料の無償化施策は、収入が高い世帯ほどに経済的恩恵が大きくなります。経済的格差を拡大する要素が極めて強い施策です。

こうした施策を通じて収入が高い世帯に住んでもらい、子供を産み育てて欲しいのが自治体の本音かもしれません。理屈としては理解できます。しかし、高収入世帯が無償化に魅力を感じて移住するとは限りません。一方で、低収入で苦しんでいる世帯に更なる援助は必要ないでしょうか。

職員給与アップや施設整備は? 続けられるの?

他には保育所等で働く職員の給与向上・施設整備へ充てる方法もあるでしょう。様々な保育所等を見る度に、「古い・汚い・何とかならないか」という思いを抱きます。また、保育士から安月給を愚痴られる事もしばしばあります。

公立施設の民営化等によって捻出された財源は貴重です。保育料無償化以外にも、様々な子育て世帯への使い道があるでしょう。

また、一度無償化を始めてしまうと止められない可能性が強いです。一定額の保育料を支払っているのであれば、多少の増減は想定できます。しかし、「無償から有償化」へのハードルは極めて高いです。仮に財政状況が悪化しても無償化施策を続けられるのでしょうか。保護者目線としては「簡単には有償化されない」とう安心感が持てますが。

守口市の予算によると、平成28年度の一般会計当初予算における歳出額は約630億円です。無償化には歳出額の1%を要します。

保育料を正式に無償化するか否かは予算市会で決まるでしょう。行方が注目されます。大阪市もどうなるでしょうか。